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以前ちょろっと紹介したことのあるドローン音楽に関する英文記事を、Noise/Music音盤紹介も終了してしまいさびしくもあるので、関連音盤の紹介がてらすこしづつ訳していこう、と思う。研究のあいまの片手間為事(「こんなん意訳じゃん!」と問いつめられたら、「まあ、そかもね」と返すしかない)もいいとこなので、各種のまちがいが見受けられることと思うが、そういう場合はコメント欄で指摘してもらえると、幸甚。では、全部で5部立てのうちの最初、「永遠音楽劇場」をお送りする。



誰かに「ドローン」と言ってみよう。あなたがその言葉を誰に言ったかによって、色んな返答が返ってくることと思う。昆虫学者だったらミツバチの交配について語ってくれることだろうし、軍事専門家だったら無人飛行機について講釈してくれるだろうし、音楽学者であったらたぶん、バグパイプやらブルーグラス・バンジョーやらデジェリドゥーのドローン的響きについての分析を聞かせてくれるだろう。いっぽう、電子音楽のサークル内では、この「ドローン」という言葉は、ラ・モンテ・ヤングやテリー・ライリーらによる歴史的エピソードを思いおこさせるかもしれないし、あるいは、ストロボに照らし出された歌い手とタンブーラ奏者という郷愁をそそる場面を思いおこさせるかもしれない。だけれども、グレッグ・デイヴィス、デスプロッド、ロバート・ヘンキ、ミニット、そしてグロウイングといったアーティストたちの最近の作品は、「ドローン」というものが上述のような「いかにも1960年代といった秘教的現象」というにとどまらず、まだまだ現役であり、もっと言えば、60年代よりももりあがっているかもしれない、ということを教えてくれる。こうしたことは、あるいは「懐古的」とも受取れるいっぽう、もしかしたら、連綿とつづくドローン的伝統への新たな息吹をわれわれは目撃しつつある、とも受取れるかもしれない。

さて、何がドローンをドローンたらしめているのか? まず何と言っても、さまざまな要素に取り巻かれるハーモニーの中心たる持続音調を挙げないわけにはいかない。このドローンは、ずーっと鳴らしつづけられるただひとつの音から成るかもしれないし、それとは正反対に、多くのオクターヴにひろがったスケール上の音すべてから成るかもしれない。他の重要なドローン成分としては、いっぱにまで引き延ばされた持続、反復する構成要素、倍音の重視ということが挙げられる。インド、インドネシア、そしてアフリカの音楽に影響を受け、ドローンはしばしば一般的ではない調律(純正調)を使うが、こうした「音の垂直的凝縮」は、「音の水平的広がり」に重きをおく西洋的伝統が暗黙のうちに音楽界を統べていることへの挑戦でもある。

上に名前を挙げたヤングとライリーは、「ミニマリズム」を論じるにあたって、よくフィリップ・グラスやスティーヴ・ライヒと一緒くたにされるが、ヤング=ライリーとグラス=ライヒとは、根本的に異なるミニマリズムの部分集合をそれぞれ代表している。作曲家、そしてヴァイオリン奏者でもあるトニー・コンラッドの語るところによれば、(ヤングが奏するような)ミニマル音楽は、調性的であり、反復様式を持ち、そして、始まりも終わりもないような「真ん中」がずっとつづくような長尺の作品である。ふつうの音楽にあるような(時間軸上の)発展はなく、トランス状態を引き起こすようなドローンは、その引き延ばされた響きと、そしてオクターヴ上に重ねられた音高とともに、ゆったりとゆったりと変化する。こうした(ヤング的ミニマル音楽に顕著な)持続する響きのかわりにグラスやライヒの初期作品は、ヤング的ミニマル音楽がもたらすのと同様の酩酊効果を持つ、ゆっくりと変化しつつ繰返される旋律パターンから成っている。こうしたヤング的ミニマル音楽とグラス的なそれとのちがいを、響きに重きをおくところから「ドローン・ミニマリズム」と前者を、リズムの律動に重きをおくところから「パターン・ミニマリズム」と後者を呼ぶことで表すこともできるかもしれない。もちろん、こうした理論的な区別をじっさいに遂行しようとすると、そうかんたんにはいかないこともまたたしかである。たとえばライヒの「4台のオルガン Four Organs」は、異なるポーズを差挟みながら24分にわたって同じコード進行を繰返すというその様式から、ドローン的特性とパターン的特性をふたつながら持つと考えられる。あるいは、同じライヒの「出てこい Come Out」や「雨が降りそう It's Gonna Rain」のほうが、そこで用いられている最小限の要素からなるパターンが繰返されることで、ほとんどドローン的なものとなっており、「ドローンとパターンの融合」といったもののよりよい事例であるかもしれない。

アンビエント音楽とドローンというジャンルも、また相重なる部分がある。たとえば、グレッグ・デイヴィスの「雲の境界線 Clouds as Edges (Version 3 Edit)」がその好例であろう。ある音楽作品が、ブライアン・イーノの「アンビエント音楽の基準」、つまり、「興味深いものでありながら、同時に、無視することもできる」という基準(『空港のための音楽 Music for Airports』、1978)を満たしつつ、上で挙げたようなドローン音楽の基準を満たすことは、あきらかに可能である。「『落ちついた、瞑想的な音楽』という、よくドローンに形容されがちな側面もさることながら、大音量で圧倒され、まるで飲み込まれるような強烈なドローンも好きだな」とデイヴィスは言う。デイヴィスがここで言っているのは、たとえば、ヤングの「永遠音楽劇場」のアンサンブルや、ざらついたフィードバックが乱舞する、ルー・リードが1975年に発表した『メタル・マシーン・ミュージック』や、Sunn O)))やグロウイングの諸作に聴かれるドローニッシュなギターリフのこと、かもしれない。



参考音盤(記事中に出てきたもの+アルファ)

  • Greg Davis, Somnia (Kranky, 2004)
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