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「方向性」のことを「ベクトル」と言う人がいる。もちろん、聞いてるこちらとしても、日常の文脈で「ベクトル」という言葉が出てくれば、あのベクトルのことではなく、たんに「方向性」の衒学的言いかえなんだな、とは思うものの、やはり、「方向性」のことを「ベクトル」と言いかえる人に出くわすと、「ほう、あなたにとって『方向性』とは、加法が定義されている概念なんですね?」と、悪態のひとつでもつきたくなる。

「ベクトル」という概念をそれなりに理解したうえで、「方向性」を「ベクトル」と言いかえるのであれば、まだいい。そういう人には、ニヤリとしながら如上のような悪態をつき、そして、悪態をつかれた人も相応の受け答えをしてくれるであろうから。ただ、現実はそうではない、ように思う。つまり、「方向性」のことを「ベクトル」と言うような人は、たいてい「ベクトル」という概念をまったく理解していない。自分が理解していないような言葉を、なぜそうやすやすと、しかもまちがった用法で使えるのか。ほんとうにふしぎだ。

まあ、あまりこういうことばかり言っていると、「積分」という言葉が出てくると、反射的に「それはどういう意味合いでの積分ですか?」と聞きかえしてしまうような(つまり、リーマンの意味での積分なのか、ルベーグの意味での積分なのか、過剰にsensitiveになっている)、そんな小うるさい人と同じ穴の狢なのだけど。

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媒介者のことをベクトルと呼ぶ人に出くわしたことはありますか?それとも、こっちは「ベクター」と書くんでしたっけ?
4space 2008/05/07(Wed)22:13:00 編集
「媒介者」のことをvectorと言う人にはさすがに出くわしたことはないですねえ(ところで、vectorを「媒介者」の意で用いるのは、疫学関係か何かでしたっけ? あ、いや、調べればすむことなんですが)。
はやし 2008/05/08(Thu)15:43:00 編集
伝染するもの(ウィルス・菌・寄生虫など)や花粉などを運ぶ媒介者ということで、疫学や植物学、さらにもっと最近では、遺伝子組み換えの操作時に目的の遺伝子を培養菌に運び込むDNAのこともvectorと呼ぶことから、生物学・遺伝子工学などでも用いられるようです。
4space 2008/05/08(Thu)22:10:00 編集
ああ、なるほど。vectorの「媒介者」としての用法については、なぁんか覚えがあるので(「え、そういう用法あるの?」と思った覚えがある)、たぶん去年あたり読んだbioethicsがらみの論文で出てきたのかもしれません。
はやし 2008/05/09(Fri)12:14:00 編集
Vectorという言葉を数学者で初めて用いたのはハミルトンらしいです。Vectorはハミルトンがラテン語のvectumからパクッた造語だとか。
ラテン語は本当のところ私はさっぱりわからないのですが、vectumの意味がもし「運ぶもの」なら、むしろ逸脱した使い方をやったのは数学(者)側であり、遺伝子工学の方が、より正確に使っていると思われます。
人文系で使われる「ベクトル」ですが、これは数学で定着したがVectorがまさに語源であり、ラテン語は関係ないのでしょう。人文系で使う「向いている方向性」の意味では、おそらくラテン語の語源からはぶっとびすぎている。

「ぜんぜん、大丈夫です」なんて、35年前の日本で使えば、国語として完全に0点もの。日常会話で使っただけで、完全なあほ扱いをされたものです。でも、今なら、普通に使っていますよね。
言葉の使い方について、あんまりうるさく言いすぎるのも「言葉狩り」好きの右翼的な感じがして、それはそれであまり好きではありません。(右系の人は、「ぜんぜん、大丈夫です」なんて聞いたら、今でも、国語に忠実でないと間違いなく怒りだすと思います。)
「知の欺瞞」と「言葉狩り」の関係。結構、難しいですね。
ぷっつん大吉 2008/07/26(Sat)07:23:08 編集
欧米語での学術(造)語というのは、大なり小なりラテン語ギリシア語を範としてなされますので(ちょうど、日本語では漢語をもとにして学術新造語がなされるようなものです)、ハミルトンの例はとくだん奇異でもありませんし、しかもハミルトンの「ベクトル」の用法は当時の天文学での用法をも考えあわせればじゅうぶんにlegitimateでもありますので、取りたてて云々する点はなからんと思われます(それを言うなら、群・環・体のほうが、よほど「ぶっとんだ」転用でしょう)。

ひるがえって、人文系、と言うか、いまやほとんど「日常語」のひとつとして使われる「方向(性)」という意味での「ベクトル」ですが、基本的にその用法が文脈によって容易に決されますので、プラクティカルなレヴェルでは問題ないと言えば問題ないのですが、ぼくがいちばん引っかかるのが、「方向性」と言えば済むところを「ベクトル」と言ってしまう心性にひそむある種の「衒学趣味」とでも言うべきもので、そうしたものには、ちょうど「すべて」の「高級な言い換え」として「すべからく」を使う人たち(言うまでもなく、「すべからく」は漢文での「須」なのですから、かならず「すべからく〜べし」というかたちで用いられなければなりません)に感ずるのとおなじ「なんだかなあ」さを感じます。
はやし 2008/07/26(Sat)09:09:07 編集
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