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学期末のあれこれに忙殺されて中断してしまっていた『量子論理への新アプローチ』のまとめを再開しようと、ヒルベルト空間の部分を読んでいたのだけど、記述が簡素に過ぎ、これをそのまままとめて、しかるのちあとで読みかえしても訳が分からんだろうし、それに、基本的には自分用のまとめとはいえ、(かならずしも数理系について学んだことがあるとはかぎらない)他の人が読むこともある程度念頭におくと、ヒルベルト空間(および、それと量子力学との関係)についてひとつ自前のまとめを作っとくのもいいかな、と思った。

今日は、その第1回目として、ヒルベルト空間そのものについてではなく、「ヒルベルト空間に至る道」とでもいった風合いで、いろいろな空間を紹介しよう、と思う。

まず、ここで紹介するすべての空間の基底となるベクトル空間については既知とする……と言いたいところだけど、それではアンマリなので、ごくかんたんな定義だけしておく(なお、ベクトル空間のそれにかぎらず、以下のすべての空間の定義について言えることだが、それぞれの空間を特徴づける演算に関して、それらが満たすべき条件は、ばっさりと割愛することにする)。

ベクトル空間とは、「方向」と「大きさ」を持ったベクトルと呼ばれる要素(以下、「要素」のことを「元」とも呼ぶ)と、実数の集合Rあるいは複素数の集合C(これらふたつをとくに区別する必要がない場合、両者いずれをも指すものとしてFと書く。また、Fの元を「スカラ」と呼ぶ)から構成される、以下のふたつの演算が定義された「空間」である。

  • E+E → EEはベクトルの集合とする)
  • λE → EλFいずれかの元とする)

前者は「加法」と呼ばれ、後者は「スカラ乗法」と呼ばれる。

さて、上の説明において、ベクトルを「大きさ」を持つものとしたが、これはややミスリーディングである。というのも、ベクトル空間においてはまだ、「大きさ」や「長さ」というものが定義されていないから。というわけで、つぎに、「大きさ」(や「長さ」)の概念を抽象化した「ノルム」という概念をベクトル空間に導入し、ノルム空間と呼ばれるものを構成する。

ノルム空間とはベクトル空間に、以下で定義される演算||x||を加えたものである。

  • ||x||: E → R

つまり、演算||x||は、ベクトルの集合Eの各元に実数を対応づける。しかし、このノルム空間でもまだ、通常「空間」と呼ばれている、そこで「大きさ」や「長さ」が定義されているものには届かない。そうした、通常意味される「大きさ」や「長さ」を空間に導入するには、「距離函数」と呼ばれるd(x,y)を導入し、距離空間を構成する必要がある。

距離空間とはノルム空間に、以下で定義される距離函数d(x,y)を加えたものである。

  • d(x,y): ||x-y||

つまり、距離函数の導入によって、ベクトル空間のふたつの元どうしの「距離」が定義される。

ここで、やや気が重いが、コーシー列収束、そして完備の概念を説明する。

距離空間M内の「列」x_n: x_1, x_2, ..., x_nnは自然数)を考える。任意のε>0に対してあるn_0≧0が存在し、そしてm,n≧n0となる任意のm,nをとったとき、d(x_m,x_n)<εであれば、その「列」x_nコーシー列と呼ばれる。直感的に言えば、どんなにちいさな正数εを考えても、ある大きさ以上のn_0を考えれば、列x_nのn_0以降の列どうしの「距離」はε以内に収めうるということであり、つまり、列x_nのあるn番目以降の「つづまり具合」はかなりせまい(ぎっしりびっしり)、ということである。また、あるコーシー列がある値に行きつくとき、そのコーシー列は収束するという(ちなみに、考えられているスカラーがRである場合、そこでのコーシー列はかならず収束する)。ある距離空間Mにおいて、そのすべてのコーシー列が収束するとき、その距離空間M完備であると言われる。

さて、上のように距離空間について完備という概念が定義されたが、そうした完備な距離空間(より一般的にはノルム空間)はバナッハ空間と呼ばれる。そして、このバナッハ空間について、内積と呼ばれる以下の演算<x,y>が定義されるとき、その空間がヒルベルト空間である。

  • ExE → F

つまり内積<x,y>は、ベクトル空間のふたつの元を、スカラーに対応づける。また、内積が導入されることで、ベクトルどうしの「角度」も定義される。

まとめると、ヒルベルト空間とは、以下のものである。

  • ヒルベルト空間=ベクトル空間+ノルム+完備性+内積

ゆえにそれは、「内積が定義されたバナッハ空間」や「完備な内積空間」など、いろいろな表現の仕方ができる。また、われわれにとってもっともなじみのあるユークリッド空間は、完備な内積空間であるので、これは(有限次元の)ヒルベルト空間である。

次回は、このヒルベルト空間と量子力学の関わり合いについて略述しよう、と思う。

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コメント
細かいことですが、ノルムに関して一つ:ベクトルに数を対応させる、とありましたが、厳密にはrangeは[0, 8(無限大のつもり)]だったと思います。量子力学ではノルムが発散するベクトルも許す広い枠組みを使う場合があると読んだ覚えがあります。御参考までに。
4space 2008/05/07(Wed)22:35:00 編集
||x||の値域指定の&quot;R&quot;でいちおう「無限大」の意もこめたつもりでしたが、たしかに明示的に[0,infinity]とするべき、でしたね。というか、&quot;R&quot;だけでは負数も値域に含まれてしまう書き方なので、うまくなかったかもしれません。まあ、今後もけっこうこの手のsloppinessは頻出すると思いますが、よろしくお付合いください。
はやし 2008/05/08(Thu)15:46:00 編集
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