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日本語で書かれたものの英訳が予想以上に分かりやすかったのでそれに味をしめた、というわけではないけれど、questiaで源氏物語の英訳を見つけたので、まったくそぞろに拾い読みをしている(ちなみに、西田のような理論的著作であれば、それが何語で書かれているかということはそれほど問題にはならないが、源氏のような「何が書かれているか」と同じくらい、あるいはそれ以上に、「いかに書かれているか」を味読すべきものの場合、おれは基本的にそれがもともと書かれた言語で読むべき、と思う。だから、「源氏を英訳で読む」ということは、ある種の「致し方なさ」と同時に、「英語だとどう表現されているんだろう?」という興味に基づいている)。そして、その英訳源氏を読みながら、これまたそぞろに、「もののあはれ」を外人に説明するとしたら、どのようにするだろう?ということを考えた。

とりあえず、スタンダードな「もののあはれ」という言い回しの英訳を調べてみると、"empathy towards things"あるいは"sensitivity to things"となっており、いずれも「もの」をthingsと訳している。しかし、オクシデンタリスム的思考に泥んでしまっているものとしては、thingsと言うとどうしてもtangibleでdelimitedな「もの」を思いうかべてしまう(もちろん、英語のthing、あるいはフランス語のchoseでもドイツ語のDingでもいいが、それらがほんとうにtangibleでdelimitedな「物体としてのもの」を専一に指しているかどうかは、別途調査と考究が必要であることは言うまでもない)

もちろん、古語のそれも含めて日本語の「もの」は、tangibleでdelimitedな「物体としてのもの」も指す。だが、それが指すものが「専一」に「物体としてのもの」であるとは、とても言えない。それは、「もの」という言葉がつく日本語の言い回しを少し考えてみればたやすく分かることだ。「ものがなしい」「ものさびしい」「物腰」「物怖じ」「物言い」(いまはたと気づいたのだが、以前この「物言い」という言い回しが気に食わないと言った御仁--ここの発言の24と27を参照--は、この「物言い」という言い回しにこめられている「ふくみ」をまったくわかっていないのではないだろうか? もし分かっていれば、「物言い」と「言い方」をイクォールで結びつけるようなバカ丸出しの発言はするまい)、そして「物語」……。これらで使われている「もの」は、物体的なそれよりも、むしろ、過程的行為的出来事的なそれだ。

ただ、うえのように言ったからといって、「日本人というのは古来、そういう『もの』という言葉にさえ精神的な(あるいは、非物質的な)意味をこめ、『目に見えないもの』をだいじにしてきたのだ」ということにはならない。それどころか、そういう「目に見えない」はずのものですら「目に見えるようにする」装置としてこの「もの」という言葉が用いられてきた、と考えることすらできる。そして、各勅撰和歌集や物語作品を読んでおれが感じるのは、そうした「極端なマテリアリスト」としての人びとの群像である。

……そんなことをいいかげんに考えたが、これはもうちょっと精緻に詰めると、なかなかおもしろそうなので、いつか(いつ?)時間ができたら、日本古典文学大系でもかたわらにおいて考えてみたい。

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ものぐさ族さんの上記エントリーにトラックバックされては如何でしょう。
設定 2007/12/06(Thu)10:54:00 編集
おれのドイツ語力は、「辞書を引き引きとりあえず読める」といった程度だから、くだんのカフカの文に現れる「ものDing(e)」が、ここで言われている「もの」とどれほど関係するのかよく分からない。ただ、カフカの場合、そこで問題になっているのは(もし「問題になっている」と言われうる点があるとすれば)、referent(s)とreference(s)の「乖離」ということで、構造的には「日本的もの」とはちょうど逆、のようにも見える。とはいえ、そういう「乖離」の主題は、ほんとうにドイツ語の「ものDing(e)」に内在的なのか、それともカフカ(の「祈る男との対話」)に固有の主題なのか判断がつかないので、やはり「当座は関係ない」としておくのがいいのではないかと。

なんにせよ、べつだんあえてトラバ打たなくても、彼はここを見てるでしょう(たぶん)。
はやし 2007/12/06(Thu)12:10:00 編集
分かりやすい解説ありがとうございます。
でしゃばったことですみませんでした。
設定 2007/12/06(Thu)12:13:00 編集
いえいえ。またなにかあれば、なんなりと。
はやし 2007/12/06(Thu)12:15:00 編集
「ものもらい」を忘れたら駄目だろ……
永遠小僧 2007/12/07(Fri)13:28:00 編集
「もの静か」で「もの忘れ」の激しい私。
Sita 2007/12/07(Fri)14:05:00 編集
「ものもらい」の「もの」はそれなりにtangibleでdelimitedなように思えるので、ここでは欠格です。

つうか、ものもらいに何か忘れがたい思い出でもあるのか?
はやし 2007/12/07(Fri)14:14:00 編集
「ものの本」の「もの」って何よ?というのも大問題です。
はやし 2007/12/07(Fri)14:15:00 編集
モノポリーやりたいなぁ…と思ったら、実際「モノポリー」自体はやったことないらしいことに気付いた。じゃああれは何だったんだろうか。あの、3枚のゲーム板で6種類のゲームが出来るやつ。
希更 2007/12/08(Sat)03:53:00 編集
英語の「mono」と日本語の「もの」が韻を踏んでるのが悩ましいところです。
詩人としては…。
宮本浩樹 2007/12/08(Sat)04:12:00 編集
え、モノポリーやったことないの? それは何と言うか、めずらしい人種だな。

で、3枚のゲーム盤で、ってのは、ダイアモンドゲームとかのやつだね。
はやし 2007/12/08(Sat)06:35:00 編集
言葉にかんする感受性もセンスもそれほどあるようには思えないのに、よくもまあ「詩人」だなんて言えたもんだよな。酔った勢いなのかも知れんが、そういう僭称は感心できんね。
はやし 2007/12/08(Sat)06:38:00 編集
まあ、いわゆる「鈍い」はやしさんに感受できないセンスの持ち主ってことなら「僭称」には当たらんでしょう。
これからは「自称」詩人。で行ってもいいけど。
宮本浩樹 2007/12/08(Sat)14:16:00 編集
ああ、思っていたとおりの反応だ。できれば好意的に、自らを「詩人」と称したことも含めて「ネタの一環」だと思いたいけど、もしほんとのほんとに自分が「詩人」と称するに値すると思っているなら、「つくづくおめでたい人だな」と言うほかないな。その場合、宮本さん言うところの「詩」を色紙にでも書いて、駅前とかで売るのがお似合いなのではないでしょうか。200円くらいで。
はやし 2007/12/08(Sat)15:29:00 編集
「詩」は売らないよ。
いくら値がついても。

捧げるのさ。愛するものに…
宮本浩樹 2007/12/08(Sat)19:27:00 編集
あっそ。
はやし 2007/12/09(Sun)04:39:00 編集
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