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みーさんが自身のブログで、なぜおれが〈暴力〉について書きついでいるのか、ということについて気にしてくれているらしい記述を目にした。ので、今回はそのことについて書いてみたい。

そもそものきっかけは、「〈暴力〉について (1)」の劈頭に引用した『〈老い〉の現在進行形』における三好春樹の発言に疑問を持ったからだった。そこで引用した部分を再掲する。

……ぼくからすると東大を出ているというだけで暴力的だとおもうんです。知識を持っているというだけですごい暴力的です。たとえば知識のある人が現場の人に向かってしゃべると現場の人は黙りますね。人を沈黙させるというのは暴力と言うか権力なんです。……

(吉本隆明・三好春樹『〈老い〉の現在進行形』166ページ、三好春樹氏の発言より)

一読して、「んなこと言われてもなあ」とひどく困惑した。たしかに、「知識を持っている」というだけで、現場の人であれ誰であれ、他人に対して高圧的な態度でその発言を封殺する、というのは、よろしくないことだ。だが、この発言で言われているのとちょうど反対の風景、つまり、現場の人が直截的な暴力である人の発言を封殺する、というのに比べれば、言葉(知識)で黙らせたほうが、何ぼかましじゃないか、と思った。だから、まずは「知識を持っている」ということ、ひいては「知識」というものを擁護しよう。そして、それでもそれは「暴力」である、と言うのであれば、その「暴力」とやらを虚心坦懐に見つめなおし、その上で何かを言ってやろう、と思ったのだ。

だから、当初はここまでベンヤミンにかかずらうつもりは全然なかった。もちろん、ある程度はその議論を参照する必要はある、と思ってはいたけど、その書きものを読み返すうちに、「ある程度」を超えて何かを言う必要があるな、と感じるようになった。これは「分からない」では済ませてはならない書きものだし、精査のすえ、「これはダメだ」ということになれば、容赦なくぶったたくべきだとも思われた。

そういうわけで今現在、当初のモチーフからはかけ離れた観はあるけど、でも、とっかかりは何であれ、〈暴力〉というこの問題はあらためて考えるに値する、とも思う。だから書いている。

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コメント
「三好春樹氏の発言」って結構本音の部分ついていると思うなあ。ジェンダースタディーズがまだ人口に膾炙していなかった時なんて、東大出の女性は就活の時にあえて東大出ていること隠したなんていう話聞いたことあるし、東大出のAV女優がでてくるとそれも有標性を帯びるんだよね。その関係を男性に平行移動しても同じでさ、友達なんかのあいだでも色眼鏡で見られることをきらってあえて東大出であることを隠したいという奴も多いんじゃないかなあ。ここは読んでて立ち止まるいいポイントだと思うよ。それこそ、『知の欺瞞』的な話にも接続できるのではないかなあ。ちなみに『知の欺瞞』の訳者の一人であるH教授にインタビューしにいったことがあるが非常にいい方だった。関係ないが。
島田 2007/01/26(Fri)05:22:00 編集
おれも三好さんの発言は本音でもあり、そして幾許かの「実態」を表していると思えるからこそこんなに永きにわたってその言うところを考えているわけですが、やっぱり、三好さんのようなナイーヴさで「知=力=暴力」というスキームを認めるには、ちょっと、というか、だいぶ抵抗がありますね、おれは。

また、『知の欺瞞』的な話との接続関係、正直分かるような分からんような、なのですが、三好さんの発言との相同を読みこむと、「理系知による人文知の封殺」ということなのでしょうか? そうだとすれば、これはたんじゅんにそうは言えない、と思います。まずもって、『知の欺瞞』の両派の登場人物はいずれも、そのそれぞれの言論の場を持ち、そこでその思うところを言えるわけですから。もちろん、こういう割り切り方自体、「人文科学」側から猛火を浴びせかけられているということも知っていますが、その議論の大抵はまともに取り合うに値しない、とこれまた割り切っています。
はやし 2007/01/26(Fri)21:39:00 編集
はやしさんの言いたい、「知=力=暴力」というスキーム自体がもつナイーヴさというのもわかるようなわからないような。精緻に「知=力=暴力」というスキームかといわれれば、その例外も多々あるだろうが、私の挙げた例も細かいところの私的といわれればそれまでだが、ではなぜ東大出の女性は就活の時にあえて東大出の女であることを隠さなければならないほど家父長的な社会だったんだろう(今もだけどね)。それは力や暴力から最も遠い存在として、あえて女が措定されていたからなんじゃないか? そこで私としては、なぜはやしさんが「知=力=暴力」というスキームを認めることに(なぜそこまでナイーヴに)抵抗を感じるか? CMのあと、そこをききたい。
島田 2007/01/28(Sun)02:10:00 編集
東大女子の例は、それも「暴力」の現れだ、と言えばそうなんですが、ただその場合、東大女子のほうがどうこう、ということではなく、選考者側の要らぬやっかみを避けたい、ということなんじゃないですか? だから、ここで三好さんが言っている「東大であることの暴力性」という事例からはちょっとずれる、と思います。そもそも、この「東大女子」の事例から、「知=力=暴力」という話への連結が「そこで」でなされていることについて、いまいちその結構が分かりません。

それはさておき、「知=力=暴力」をナイーヴに認めること、なんですが、この議論は相同的に言えば、「原子力は危ないからいかん!」と言うような、テクノロジーそれ自体に価値が内在しているような、そういう物言いに抵抗があるのです。ふつうに考えれば分かるとおり、「知」というものがその「力」を行使する、その状況も込みで考えなければどうしようもないのに、三好さんは「知」というものが暴力的に働く場合、たんじゅんにその「知」を否定すればいい、というようなスタンスを取っているように思える。これを「ナイーヴ」と言わずして、なんと言ったらいいのでしょう?
はやし 2007/01/28(Sun)02:42:00 編集
はやしさんの、その意見がまさにその通りだと思う。「三好さんは「知」というものが暴力的に働く場合、たんじゅんにその「知」を否定すればいい、というようなスタンス」(はやしさん)については私も全面合意であって、まさにこのことを再確認するつもりであえてもっとここの部分を立ち止まって欲しくてコメントつけてたといってもかっこつけすぎかも知れないが、そうなんだよね。で、じつはこのことが今度からやるルーマンの「社会システム理論」の読書会をする大きな僕にとっての意味なんだ。批判をする場合のその批判者の根拠も実は批判されている者の根拠の曖昧さと同じ程度に曖昧である。かといって社会構築主義的に言語の外を全面否定してしまう立場でも腑に落ちない。システム理論をやったからといって解決できるわけではないとは思うが、もっと社会構造を知る欲求を満たしてくれるのではないかという淡い期待を込めて今度の読書会には期待しているところもあります。皆さんも私も前提知識などそんなにないので、少しでも興味があれば読書会参加待てます。
島田 2007/01/29(Mon)10:34:00 編集
「批判をする場合のその批判者の根拠も実は批判されている者の根拠の曖昧さと同じ程度に曖昧である」ってのは、それはぼくの場合を言ってもそうなんですよ。ただ、何ごとかについて何かを言おうとすれば、かならず「どこか」からしかものを言うことができない。しかも、ある程度定まった「何か」(お好みならこれを「現実」と呼んでもかまいません)と言われるものとの一対一対応が保証されている、もしくは、そうした対応が成り立つ可能性があること、つまりは「記述的」なことについてはまだしも、かような「規範的」なことについて何ごとかを言う場合、とりあえずその出発点を「自分の思うこと」に置くしかない、とぼくは思います。そうではなく、そうした自分のポジションすらも「括弧にくく」ってしまうと、結局はその後の議論が立ち行かない、もしくは、あまり面白くもないようなものになる。

だからと言って、もちろん、独断論を称揚しよう、と言うのではなく、初発の議論としては、「三好さんの言ってることはどうもおかしいぞ」という点に重きが置かれるにしても、そうした議論の行程において、まさにそう思う自分の立場をも吟味すべきだし、ぼくとしては及ばずもそういう議論の仕方をしているつもりなのですが、いかがでしょう?
はやし 2007/01/30(Tue)06:17:00 編集
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