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Nils Schneiderっていう人が、iPodのファームウェアをリバース・エンジニアリングして、音の出し入れ自由自在、って感じに仕立て上げたんだけど、そのハックの手管がまたいいんだよね。

まず彼はファームウェアを「音声」としてiPodから出力してPCに取り込み、その音声をデコードするプログラムを書いて解析したんだ。

で、このことに触れてSeth David Schoenは「ハックにとって大切なこと」とでも言えるようなことを、次のように箇条書きにして述べている。

  • 革新的であることと、受身ではいないこと。アップルはiPodにサードパーティのソフトウェアを使うことはまったく考えていなかった。でもシュナイダーはそんなことには頓着せずに、その開発者たちが夢にも思わなかったようなやり方で(もし彼らがこのことを聞いたら、かなりエキサイトするだろうね)iPodをハックした。シュナイダーは自分の思考を、その作成者が考えていた枠組みに限定することを拒否した。彼は、そう、言うなれば、「違う風に考える think different」ことにこだわったんだ。
  • 歴史を意識すること。シュナイダーがやったような「データを音で表現する」ってのは、昔なら当たり前のことだった。デイヴ・ファーバー*1がしばしば指摘したように、今コンピュータ科学やプログラミングに従事している人たちってのは、彼らよりも前の世代が成し遂げたことを知らなかったりする。他の分野で以上にコンピュータ科学では、前にやったことを繰り返す、という無駄なことをしている。「デジタルデータを音として扱う」という考え方は、ずーっと前からデジタル・コミュニケーションにおいては大切なものだったはずだ。でも、すでにモデムを使わなくなった最近の人たちは、やすやすとそのことを忘れてしまう。いわんや、音声カプラ・モデムのことなんて、知りもしないだろうね。
  • 機械の普遍性を正しく認識すること。「データはデータである」という考えと、「データの表現形式とエンコーディング」という考えは、どういう風にこれらの考えを解釈するかにもよるけど、何十年とか、下手すりゃ何世紀も前からあるものだ(たとえば、こうした考え方の、シャノン・チューリング・ノイマン以前の例が、ウンベルト・エーコの『普遍言語の探求』*2に見られる)。ただ、そうは言っても私たちは、認知心理学者が「機能的固定」と言う状態にはまり込み、今ある表現形式でしかデータというものを見られないものだ。だから、馴染みのないシグナル化やストレージメディアがデータを表現・収納できるとは考えられなかったり、コミュニケーション媒体やコンピューティング・デバイスを普遍的なものとして捉えられなかったりする。私たちは、「ある特定の出力形式は、ある特定の目的のためにだけある」と考えてしまうし、あるデータにいくつもの表現形式があるのだとは夢にも思わない。私たちはシャノンの、そしてその後の情報理論を知っているが、「いかなるデータであれ、どんな風にでもコーディングできる」ということの実践的意味をいまだ知りはしないのだ。だがiPodをハックしたシュナイダーは、まさに「情報世代」と言うに相応しい、「抽象化」と「一般化」という理念とともに考えたのだ。彼は、コミュニケーション工学的見地から言って、ビットはビットであり、その意味は後から、異なるレイヤーに来るものだ、ということを知っていたのだ。
  • ハック・バリュー。何かに「ハック・バリューがある」と言うことは、いささかリスキーなことかもしれない。というのも、「ハック」と言う言葉は法的分野において、本来その言葉が指し示すものではないものを指し示したりするのだから。だからここでは「ジャーゴン・ファイル」の定義*3と、『ダイアモンド・エイジ』*4における有名な議論を参照しよう。……「ハック」というのは説明しにくい言葉でして……たとえば、ある種の技術には、「技術的にほれぼれする」だとか、「ナイスなハックだ」とか言うしかないような、ちょっと言葉にしづらい性質があるのです。「ハック」というのは、動機付けられているだけではなく、何か霊感を受けたというような人によってなされる、細心の注意を伴った挙措であり、こうしたことこそが、エンジニアとハッカーを分け隔てるものなのです。

うーん、これって別にハックに限らず、すごい大事なことを言ってるよね。


*1 http://www.cis.upenn.edu/~farber/
*2 『完全言語の探求』として平凡社より刊
*3 http://www.catb.org/~esr/jargon/html/H/hack-value.html
*4 早川書店より刊

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