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数学や論理学において、「〜律」と表現されることのおおい基本的な式の変換法則がいくつかある。数学の「原理」の書たるプリンキピアにおいては、これらの、通常あまり証明されることはなしに「当たり前のもの」として運用される基本命題も、とうぜんだが、いちから証明される。だが、この「序論」においては、それら(たぶん、おおくの人にとって既知と思われる)基本法則の羅列と、そのなかのいくつかについてコメントするにとどめられる。

まず、排中律、矛盾律、そして二重否定律を見てみよう。

  • (排中律)@.p∨~p
  • (矛盾律)@.~(p.~p)
  • (二重否定律)@.p≡~(~p)

これらについては取りたてたる説明も要らないであろうが、いちおう「話し言葉」風に言いかえておくと、排中律は「ある命題は、その言ってることが正しいか正しくないか、どちらかである」ということであり、矛盾律は「ある命題は、その言ってることが同時に、正しく、かつ正しくない、ということはない」ということであり、二重否定律は「ある命題を、『〜ではない、ということはない』と二回否定すると、元の命題になる」ということである。

上で、真理値「偽」のややsloppyな言いかえとして「正しくない」という語を選択したが、厳密に言えば、これはいっぱんには成り立たない。なぜなら、ある命題は端的に「無意味」である、ということがありうるから。もちろん、考えられている系が二値原理 bivalence principle を採用していない場合、「偽」の言いかえとして「正しくない」が成り立たないことは言うまでもない。

つぎに対偶律であるが、これはいっぱんに知られるかたち(「pであればqなら、qでなければpでない」)以外に、『プリンキピア』では都合みっつの表現がなされる。

  • (対偶律 1)@:p⊃q.≡.~q⊃~p
  • (対偶律 2)@:p≡q.≡.~p≡~q
  • (対偶律 3)@:.p.q.⊃.r:≡:p.~r.⊃.~q

ひとつめは、上で述べた対偶律の忠実な記号化なので、とくに言うことはない(対偶律そのものを、「ある記号列からの演繹結果」としてではなく、それ自体として「なぜ成り立つか」を考えることは、なかなかに興味深いことなのだが、そうした議論は別稿にゆずる)。ふたつめは、端的に「対偶律」というよりも、(いっぱんに言われる)それに「逆」の場合、つまり「p⊃qならばq⊃p」も成り立つ場合をも加えたもの。みっつめは、いっぱんの対偶律に、左から別の命題を「かけた」もの。

ほんとうに「ちなみに」と言うしかないことではあるが、ある事柄(命題)をめぐる議論や思考において、そこで論じられている/考えられている事柄(命題)の対偶をとると、議論/考えがすっきりすることがままある。手前味噌ではあるが、このエントリのコメント欄を参照。

つぎは、あまりいっぱんには「〜律」という言い方はされることのない、「同語反復律 law of tautology」と呼ばれるものである。

  • (同語反復律 1)@:p.≡.p.p
  • (同語反復律 2)@:p.≡.p∨p

これは、「≡」の「右辺⊃左辺」考えると、「pであり、かつpであれば、p」「pであるか、もしくはpであれば、p」と、見事なまでに「同語反復」になっている。また、上記の命題の「.」「」「」をそれぞれ、いっぱんの代数計算における「x」「+」「=」と読みかえ、命題pを「1」と考えると、上記の命題はそれぞれ

  • 1=1x1
  • 1=1+1

となり、いっぱんの代数計算とのちがいがここに出てくる。

つぎに「吸収律」にうつる。これは、以下のようなものである。

  • @:.p⊃q.≡:p.≡.p.q

これは、一見したところ、「何だか分かるような分からんような」だろうが、つぎのように考えるとよい。まず、p⊃qは「話し言葉」で言えば「pであればq」ということで、つまり、命題qの「内容」は命題pのそれよりも「豊か」である、ということである。これをヴェン図で表すと、つぎのようになる。

http://orc.lolipop.jp/image/ifpthenq.jpg

ところで、吸収律(の形式化されたもの)の右辺(の「話し言葉」ヴァージョン)は、「pqの交わり(重なりあう部分)はpと同じ」ということなのだから、これはまさに、上図で表されている状況であり、ゆえに、吸収律の「正しさ」が(迂回路を通ってではあるが)納得されるであろう。

また、吸収律に似たかたちのもので、以下のような「ひじょうに重要で有用」と言われる原理が述べられる。

  • @:.q.⊃:p.≡.p.q

これが「ひじょうに重要で有用」と言われるそのわけは、ある命題(ここではq)が真であることが分かっている場合、その命題とある命題の積(ここではp.q)からその真である部分を省くことができる、ということにある。

これは、ある意味「真なる前提が含意(imply)するものは、また真である」という公理(この回を参照)のヴァリエーションとも言えるのではないか? つまり、数学(あるいは論理学)において重要なのは、「真⊃真」という明々白々な含意関係ではなく、いまだ真偽が決されていない命題の真偽を解き明かすことにあるのだから(もっとも、こうした「真偽未定」な命題/推論も、最終的には「真⊃真」という「明らかさ」に帰着される必要があることは言うまでもない)。

最後に、算術においてわれわれにもしたしい「和と積に関する分配律」の対応物が述べられる。

  • @:.p.q∨r.≡:p.q.∨.p.q
  • @:.p.∨.q.r:≡:p∨q.p∨r

このふたつめの「和」に関する分配率では、同語反復律の「和」の場合と同様、いっぱんの算術におけるそれとのシンメトリーが崩れている(「」「.」「」を「+」「x」「=」とし、「p」「q」「r」を「1」「2」「3」とした場合、上記「和の分配律」は「1+(2x3)=(1+2)x(1+3)」となるが、この左辺は7であるのに対し右辺は12であり、たしかに成り立っていない)。

次回は、『プリンキピア』全体をとおして重要な役割を演じる「命題函数」と、余裕があれば『プリンキピア』における変数の取扱いについて述べる。

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