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「自分の頭で考える」ことに関する中坊俊平太の(ふたつめの)エントリに対するおれの応答のなかで、「中坊の他の補強論点のいくつかについては、稿を改めて論ずることとする」と言った。この稿では、そうした「補強論点」のうち、誤解をあたえそうなもの、あるいは、中坊の端的な事実誤認に基づいているのではないかと思われるものについて、一言する。
ひとつめ。上に掲げたエントリにおいて中坊は、(誤って用いられた意味での)「自分の頭で考える」という営みすら、「歴史的過程」であることは否定できず、そして、そうした「過程」は「いま」にかくじつにつながっているのだから、ゆえに、「歴史的過程」たる「自分の頭で考える」も肯定されるべきである、と言っている(そして、この点に関する疑義は、同じく上掲のおれの応答エントリでなしておいた)。そうした、「災い転じて」論法の論拠として中坊が挙げるのが、「現代の『学知』」につながる「ヨーロッパの所謂『暗黒時代』」である。
まず、「暗黒時代」と名指されるヨーロッパの時代区劃は、いっぱんに「中世」と呼ばれる時代を指すことを確認しておこう。そして、そのうえで、この「暗黒時代」という呼称は、1) ほぼ1000年にわたる「中世」を特徴づけるには雑駁すぎること(そもそも、そうした大きな時代区劃を言うのに、「中世」と一言で済ませること自体が問題なのだが)、2) おもにルネサンス期の人たちによって、みずから(つまりはルネサンス期の人たち)を高く見せるために用いられた「蔑称」であること、そして、3) じっさいに「中世」と呼ばれる時代におこったことをつぶさに見ると「暗黒時代」どころではなく、じつに豊穣な知的活動がなされていたこと、そうした諸点によって、「所謂」という緩衝辞をともなってですら、妥当ではない指示子であることも確認しておく。つまり、中坊の「論拠」はまったく「論拠」になっておらず、ぎゃくに、「外的知識に基づいて考えること」のたいせつさや重要性を証すものである。
もちろん、中坊が「暗黒時代」という言葉で、べつの事態を考えていることもありうる。ただ、であれば、「所謂」という修飾辞の働きがよく分からなくなるので、上で言われた解釈、つまり、中坊は「暗黒時代」ということで「中世」を指している、という把捉は、まちがっていないと考える。
ふたつめ。中坊は「自分の頭で考える」ことは「階級闘争(的)」なものであり、ゆえに、(「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である」という「通念」にしたがって)それは肯定されなければならない、とする。この点に関しても、上掲のおれの応答エントリで疑義を呈しておいた。ここで問題になるのは、中坊が思いうかべる、以下の「ヘゲモニー逆転」の図式と、その「根拠」である。
「自分の頭で考えちゃう人」が圧倒的多数になってアカデミックなアレコレが宗教化したとして(多分ならないけど)、その後にまた「ちゃんとやる人」が階級闘争(的)性格を帯びて勃興してくるに違いないよ。
まぁ、「何を根拠に」と言われると、キリスト教がヘゲモニーを失い始めたあたりから、それに代わって科学への信仰がワァーッとなったじゃない?とか、そんな程度の薄弱な事しか言えないんだけどさ。
まず、この論点、とくに引用部第1パラグラフで言われることに関しては、中坊自身がそれほど確信は持っておらず、むしろ、「期待」とでも言ったほうがいいような「想念」であることを確認しておこう。ただ、そうした「じじつはそうではないけど、そうなったらおもろいな」とでも言うような「心のひだ」は、「アカデミックなアレコレが宗教化」、つまりは「自分の頭で考える」こととちがわないことになることを「多分ならない」と言いつつ、「違いない」とつよめの断言でセンテンスを閉じていることに現れている。
もちろんこのセンテンスは、反事実的条件(そして、こうした「反事実的条件」がどれほど荒唐無稽なものであろうと、そうした反事実的条件を含む命題それ自体は、妥当なものでありうる)を前件におき、そのうえで、そうした条件が成就されたときの後件の「実現加減」が相当程度であることを表しているに「表面上」は過ぎないが、修辞的に、そうした反事実的条件を含む命題それ自体の「違いなさ」が、反事実的条件に跳ね返り、その「違いなさ」を演出してしまう効果を持つことは、指摘しておいてもいい。しかし、繰りかえせば、この「条件法」はあくまで仮定、もっと言ってしまえば「期待の地平」に位置するものであり、その点(自体)は云々しない。問題は、上に引用した部分の第2パラグラフに読まれる「事実認定」と、そして、その「認定」と「期待」の関わりにある。
上掲引用部第2パラグラフにおいて、中坊は「キリスト教がヘゲモニーを失い始めたあたりから、それに代わって科学への信仰がワァーッとなった」と言う。問題は、おおきくつぎの2点に分けられる。ひとつは、そうした「事実」内での、「キリスト教がヘゲモニーを失い始めた」ことと「それに代わって科学への信仰がワァーッとなった」こととの関わり、ふたつは、この「事実」がはたして上掲引用部第1パラグラフの「仮定」を裏書きするか、ということである。まず、第2パラグラフ「事実」の部から考える。ここで、「キリスト教がヘゲモニーを失い始めた」ことと「それに代わって科学への信仰がワァーッとなった」こととのあいだには、つぎのよっつの関連可能性がある。以下、「キリスト教がヘゲモニーを失い始めた」ことをP、「それに代わって科学への信仰がワァーッとなった」ことをQとする。
- PとQは無相関
- PがQの原因
- QがPの原因
- 第3の要素Rが、PとQ共通の原因
さらに、この問いを考えるためには、「キリスト教のヘゲモニー」とはどういうことかが、明確化されなければならない。そうした「ヘゲモニー」は、はたして「世界の見方」に関わることなのか? それとも、端的な「覇権」のことなのか? もし後者であれば、それは「科学への信仰」というものとはちょくせつに関係がない、つまり、あえて言えば上の可能性のうちの第4のものということになるが、「世界観」に関するヘゲモニーのことを言うのであれば、(第4の可能性が担保されたうえでの)3番目の可能性、ということになるかと思う。そして、その場合、そうした移り変わりを使嗾したのは、「信じようが信じまいが、そうである」という「事実」の「信仰」に対する勝利であったように思われる(「科学」を信じぬものに対しても、物理法則は依然有効である。だから、「科学への信仰」というのは、よく言われる言い回しであるが、当たっていない)。
となると、こうした「信仰から事実へ」という移り変わりは、中坊が上掲引用第1パラグラフで言う「『自分の頭で考えちゃう人』が圧倒的多数になってアカデミックなアレコレが宗教化」することとは、「少数が多数を圧する」というごく外形的な図式を共有するだけで(そして、上で言ったような「信仰から事実へ」という移り変わりが、じっさいに「少数によるヘゲモニー奪取」と言えるかどうか、これも問われなければならない)、その「内実」を考えるとまったくぎゃくのことが言われていることは、論を俟たない(しかも、それこそ「歴史的」に言えば、「多数」による「少数」の「支配」が安定的であったのであり、ゆえに、中坊の言うことはありそうにない、と論ずることもできる)。だから、もし、これらが「事態と根拠」という関係に立つのであれば、べつの理由づけがなされる必要がある。そうでなければ、これは、「薄弱な根拠」どころか、何も言ったことにならない。
もちろん、中坊が論じたい、あるいはなしたいことは、「歴史上にはある『転換点』があり、その発生のメカニズムを探りたい」であることは理解できるし、たしかにそれは気になるところではあるのだが、ざんねんながらその「探求」の作法は、どちらかと言えば「自分の頭で考えちゃ」っていると言うに近しい、つまり、「現にそうである、あるいは、そうであった」という「事実」に関してはもとより、「そうであったでもあろう、あるいは、そうであるであろう」という「可能性」についても、目配せの足りないものになってしまっている。
中坊の探求のつぎなるステップは、それら諸点を勘案しつつ、前進することを期待している。
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