世界が疎遠になる。 [電波]

おおかたの人にとってこの世界とは、親しげにほほえんでくる、といったたぐいのものではないにせよ、まあどうにかやっているよ、というものとしてあると思う。だがあるものにとってこの世界は、敵対してくる、といった取りつく島がまだしもあるものではなく、その前でなす術もなくただひたすら身もだえするしかないような、そんなものとしてある。

この世界とまあどうにかやっていけている人は、おどろくほど大量の情報の取捨選択をおこなっている。じっさいに、この世界が差し出してくるあれこれにいちいちまともに取りあっていたらやっていられないし、じつのところ、この世界の9割以上は「ジャンク情報」から構成されているのだ。だから、人はそれに対して「捨ておけ回路」を作動させ、世界をやり過ごす。だが、そういう「捨ておけ回路」がうまく作動しない人もいる。

そういう人たちは、この世界とじかに向き合ってしまう。何らの濾過装置も経ずに、世界がわたしに雪崩れこんでくる。この世界のあらゆるものが、とげとげしく、どこにも収めようのないものとしてせまってくる。この世界のたがは外れてしまった。いや、そもそも、そんな「たが」などなかったのかもしれない。とにかく、わたしはこの世界に身の置き所はなく、世界もわたしに収まらない。

そのようなとげとげしい据わりのわるさは、心理的な不安感や逼迫感や焦燥感としてのみならず、身体的な不快としてあらわれる。わたしのまわりにある空気が、わたしが発する熱によってあたためられ、そしてそのあたためられた空気をまたわたしが感じる。それが、たまらなく不快なのだ。わたしと世界の最悪の二人三脚。わたしは、わたしが存在することが端的に不快なのではなく、この世界に否応もなしに在ってしまうこと、それに耐えられない。

真正面から向き合ってしまうがゆえに、遠のいていくというこの逆説。時時内心おどろくほど、せかいはだんだんそえんになる。