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かれこれもう十二時間以上ノイズを聴き続けているわけだが一向に倦む様子がない。「お前おかしいんじゃないのか?」と言われれば、ことこのことに限って「そうかもしれぬ」と思いもし、また、日本のノイズ界の、いや「日本の」という限定を外して単に「ノイズ界の重鎮」と言っても差し支えないであろう美川俊治氏が「ノイズは酒」と言っていたことを思い出し、おれは酒を飲まないからその本当のことは分からねど、ここに吉田健一の「上等の酒は水のようなもの」との言を重ね合わせると、なるほど、という心地がする。
ただ、水にも硬いものや軟らかいものがあるように、ノイズにも硬いもの、軟らかいもの、流れるようなもの、つっかえるようなもの、静謐なもの、劈くようなものと、様々である。その中でも人によってもちろん好き嫌いはあるだろうが、どれもそれぞれの面白さがあり、「硬いからいい軟らかいからだめ」というような雑駁な判断は下せない。それに、最初あるタイプのノイズを好きでないと思っても、あとからじわじわ効いてくるかもしれない。酒にしても「飲みはじめの酒はまずい」と言うではないか。
しかしそうは言っても、どんな酒があるのかを朧げながらでも知らないと、酒だと思って違うものを飲んでいたということにもなりかねまい。それはノイズにしても同じことで、だから、酒にはビール、日本酒、ウイスキー等々がある……といった程度の粒度で、それほどマニアックにではなく普通にノイズを聴いている人たち、つまりおれのような聴き手が「ノイズにはだいたいこんなのがあるよね」とコンセンサスが得られるであろうような「ノイズの古典」をぞぞぞっと挙げてみよう。なお、「何でこの歴史的名盤が挙げられてないんだ!」ということがたぶんあるだろうが、それはおれの個人的限界ということで、大目に見て欲しい。というか、そういう名盤をぜひ教えてください。
- Whitehouse
ほとんど戯画的なまでにこってりとした「ノイズ」として、このホワイトハウスを挙げることに誰しも異存はなかろう。最近でこそ曲調にヴァリエーションも出てきたが、初期のころはどのアルバムもみんな同じ。「ぶりぶりぶりぶり」とか「どどどどどどどど」というような低音と「ぴー」とか「ひゃー」とかいう高音のハーモニーに、拡声器を通したようなヴォイスでしょーもないことががなられるというスタイル。そういうわけで、世間ではなぜだかDedicated To Peter Kürten が「名盤」と言われるけど(これが「名盤」と言われるのは、先に名前を挙げた美川氏がこれを「名盤」として挙げているので、みんな右に倣えをしているのではないか、とおれは勘繰っている)、正直どれを聴いても大差ない(個人的には、Right To Kill が色んな意味で一番かっちり決まっていると思う)。薦めるならベスト盤であるCream Of The Second Coming かな。
- Nurse With Wound
NWWはねえ、ほんと選ぶのに困る。つーのも、すんげーたくさん出してるんだよね。ヴィジュアル的には最初の三枚(これとこれとこれ)が「いかにも」なんだけど、音的には四枚目のInsect And Individual Silenced 以降から「NWWの音」になってくると思う。ここは独断でThe Sylvie And Babs Hi-Fi Companion を……と言いたいところだが、それもアンマリなんで(なぜ「アンマリ」なのかは聴けば分かる)、んーと、じゃあ、五枚目のHomotopy To Marie を。
- Current 93
カレントは今でこそ(って、最近の音は全然知らないけど)トラッドっちい、「これのどこがノイズなの?」ってな音になっちゃってるけど、カレントにはDogs Blood Rising というどえらい傑作があるから、その後トラッドになろうが何だろうが、どーでもいいのだ。カレントはこの一枚でノイズ史に確実に名を留めるだろう。誇張ではなく、本当にレコードの溝が擦り切れるほど聴いた一枚。ついでに言っておくと、「転向後」の音も悪くないです(Earth Covers Earth とか、たまに聴く)。
- SPK
Sozialistisches Patienten Kollektiv (社会主義患者集団)の略であるとも、Surgical Penis Klinik の略であるとも、はてはSePpuKu の略であるとも言われるSPKは、精神病院で看護人を務めるグレアム・レベルとその患者によって結成された。音以外でも、外科手術の写真をジャケットにあしらったり、ライヴで火炎放射器をぶっぱなって客に火をつけちゃったりと、ノイズっぷり充分。音盤はInformation Overload Unit ということになるんだろうけど、Leichenschrei の何とも言えぬ不穏さも捨て難い(ちなみに、おれSPKには足を向けて寝られないっつーところがあって、というのも、以前ちょっと書いたことがあるように、アーリ・ブリュを知ったのも、そしてドゥルーズを知ったのも、グレアム・レベルのインタヴュで、なのよ)。
- Controlled Bleeding
元祖ハーシュ! 「正規盤」ではないのかもしれないけど、Controlled Bleedingは何はともあれPhlegm Bag Spattered を聴いて欲しい。バリバリなノイズに怒号がかぶさるかっこよさといったらない。さっきもノリノリで聴いてました。
- Esplendor Geometrico
エスプレンドール・ゲオメトリコに関しては、迷うことなくEG 01 やEl Acero Del Partido などの初期盤を挙げる。これは、もはや「ノイズ」だなんだということは関係なく、必聴。エイフェックスツインやオウテカなどに連なる音響工作の原点がここにある。
- The Hafler Trio
ハフラートリオはちょっと「誰もが挙げるであろう」という感じではないけど(そうでもないのかな?)、一聴に値するじつに面白い音を構築している。この人たちはかなりの理屈屋で、色々メンドウなことをのたまっていたりして、それはそれでおもろいんだけど、そんなことを気にせずとも、たとえばA Thirsty Fish のドローンに身を委ねていればいいのだ。後年æo³ & ³hæ でオウテカと共演もしているが、もちろんこれも聴いたほうがいい。オウテカの音像の中に見たものが、すでにハフラーの中にあったことをあらためて見出すであろう。
- The New Blockaders/Organum
「ノイズの帝王」と呼ばれたりもするTNB/Organum。ここいら、情報が錯綜しているけど、Discogsのメンバー情報によれば「ディヴィド・ジャックマン≠TNB」っつーことらしいです……ってそんなことはどうでもいいとして、音盤としては迷うところだけど、TNBもオルガヌムも一時に!ということでPULP を。またまた美川氏の言うところによれば「様々な金属製品を巨大な回転槽に放り込み、不規則な回転をさせたかのような」音。まさに、そんな感じ。
- Throbbing Gristle
最後に、人によっては「ノイズ」と言えばまず名前が挙がるかも知れないスロッビング・グリッスル。でも、じつはおれ、TGってあんまり「ノイズの人(たち)」って認識じゃないんだよねえ。というのも、平ったく考えると、代表作は20 Jazz Funk Greats ということになると思うんだけど、これ全然「ノイズ」じゃないもん(もちろん、これもすげー好きなアルバムだし、傑作だとも思うけど、それとこれとは話が別)。たしかに一枚目のThe Second Annual Report は「ノイズ」っちゃあそうなんだけど……「けど」って感じ。ま、ジェネシス・P・オリッジの存在そのものが「ノイズ」ということで。
他にもテストデプト、P16.D4、ノクターナル・エミッション、マウリツィオ・ビアンキ、ラムレーなんかが「大御所」として名前は挙がるかも知れないけど、切りがないのでここまで! 気が向いたら次は、日本編、そして「ノイズの現在」編が書こうかな、と。
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