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「失敗」や「エラー」などというものは存在しない。
何かを「失敗」や「エラー」と看做す「文脈」が存在するだけだ。

昨今のエレクトロニック・ミュージック界で新たな領域を切り開いているのは「失敗 failure」という要素である、という論旨のキム・カスコーンの論文「失敗の美学:現代コンピュータ音楽における『ポスト・デジタル』的傾向」(in Computer Music Journal, Vol. 24, Issue 4. Available as PDF)を読んだ。

ここで「エレクトロニック・ミュージックの新たな領域」と言われているのは「グリッチ」と呼ばれるジャンルであり、その誕生には「失敗」が大きく寄与していた、という筋書きである。それでは、その「失敗」とは何か? たとえば、カスコーンが「失敗」の例として挙げるのは、オヴァルの「CDスキッピング」である。

「CDスキッピング」とは、CDの反射面にキズ、ほこりなどが付くことによって発生する、レコードで言うところの「針飛び」であり、要は「ノイズ=非楽音」である。そうしたCDスキッピングをオヴァルは、CDの反射面にフェルトペンで落書きをすることによって意図的に発生させる。そして、そうして生じた「ノイズ」を用いて、オヴァルは「音楽」を創る。

本来だったら「エラー」として避けられるべき「雑音」を、「楽音」として新たに導入しなおすこと。これが「グリッチ」を特徴付けるものである(カスコーンはこうした「失敗の美学」の起源として、未来派ルイジ・ルッソロの「イントナルモーリ(雑音発生器)」や、ジョン・ケージの「4分33秒」を挙げる。ルッソロもケージも、「楽音/非楽音」の位置ずらしをした、というわけだ)。



ただ、この例からも分かるように、ここで言われている「失敗」とは、「テクノロジーの意図的な誤用 intensional misuse of technology」と言ったほうが正確かもしれない。それでは、端的に「失敗」という言葉から想起されるものは「美学化」されえないのか? カスコーンは触れていないが、重要な「失敗の美学」の試みが、1970年代末にディヴィド・カニンガムによって行われている。

それは、「演奏の失敗」を、テープに定着させ、さらにはそれを元に曲を構築することによって、「失敗」を失敗でなくしてしまう、そんな試みであった。そうした成果の一端が、カニンガムがプロデューサを勤めたThis Heatの1stであり、自身のリーディングバンドフライング・リザーズの1stである(This Heatの楽曲は、「即興演奏の録音→その録音テープを元にした再構築→再構築されたものをさらに演奏」という工程を経て創られている)。



グリッチ的「誤用」であれ、カニンガム的「失敗」であれ、そこに見られるのは「失敗から学ぶ」などといった、それなりに正しいけれども面白くも何ともない「人生の知恵」とでも言うようなものではなく、むしろ「転んでもタダでは起きない」といった「不敵さ」であり、ある種の「不真面目さ」である。

そして、こうした「不敵さ」、「不真面目さ」が、「音」というマイクロレヴェルだけに留まらず、楽曲構造、さらには流通形態などといったマクロレヴェルにまで普及しているところが、「グリッチ」と呼ばれる音楽の面白さ、だと思う。



ちなみに、カスコーンは自らも「グリッチ」の実作者でもあり、これまでもラスタ・ノトンリトルネルサブローザといった「それ系」のレーベルから音源をリリースしている。

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