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わが胸中に去来したあれやこれやのよしなしことを書きつづるエントリ。
講演会当日になって、事前予約をしていないと入場厳しいかも、という驚天動地の事実を伝えられ、ちょっとドキドキしながら早めに会場の日仏学院に行くと、何のことはない、ヨユーでオッケー。受付で名前や所属等の記入を済ませ、同時通訳の受信機を借受け、講演開始までそこいらをプラプラ。
入場が始まり、勢い勇んで最前列にどーんと座り、帳面を開いて遠方より駆けつけられぬ友人のために「一言一句も聞き漏らすまいぞ!」勇みこむも、ペンを忘れたことにネグリが話し始めてから気付く。というわけで、以下は取捨選択の激しい、おれの脳内変換バリバリの擬報告であります。あと、当初は「衛星会議」とお知らせしたけど、何のことはない、ほぼネグリだけがしゃべりまくるという(それにしても、ほんとネグリはしゃべるしゃべる! それも、話すうちに段々と熱くなってきて、身振りも、そして口調も激しさの度合いを増し、それを見るに付け、「あーやっぱりこの人は『学者』とか何とかではなく、『闘士』なんだなあ」と強く強く思ったことでありますよ。質問への答え、という場合にも、「答える」というレベルを大きく逸脱ししゃべりまくった挙句、質問に答えてんだか何だか、という場面もしばしば)、実質的には「講演会」以外の何ものでもありませんでした。
さて、上述のように、書かれるもの=帳面は携行したのだけど、書くもの=ペンを忘れてしまったので、逐条的にとはとてもいかないので、講演のアウトライン、というか、基本線だけを略述すると、1)世界の動きというものは線形的なものでも必然的なものでもなく、非線形的で偶然の要素を孕んだものである、2)労働の柔軟化、労働の流動化という労働形態の変化が重要である、3)そうした非線形で偶然に富む世界において、柔軟化し流動化した労働というものを基盤に、自然発生的自己組織的にマルチテュードというものが生成し、それが解放の枢要なエレメントとなる……という、まあ、皆さんご存知って感じのもの。
以下、点描的に、おれの個人的な感想をば。
まず、今回の講演を聞いて、というより、おれがネグリを読むたびに感じる疑問というか、不安なんだけど、「世界の現状」の都合のいいとこだけ見ちゃってるんじゃないか、ってこと。たとえば、柔軟化・流動化っていう労働の変化って、これやっぱり諸刃の刃だと思うんだよね。世界の非線形的で偶然的な在り方というのもそう。というのも、もちろん世界のそういう在り方や、件の労働の変化っていうのが「労働者」にとって希望のしるしとなり、「変革」のための重要なエレメントになるっていうのも分からなくもないんだけど、その同じ条件が「新たな統治・搾取のツール」として作用することだって充分にあると思うんだよね。そこいら辺をどう突っ切っていくか、というのが、やっぱり不安を覚えるところではある。旗振って騒ぎ立てたはいいけど、一同玉砕ってことになりゃしねえの?って。
あと、「労働」ということに絡めて言うと、すべての労働とは基本的に「物質的なもの matériel」で、「非物質的労働 travail immatériel」という言い方は適当ではない、ってネグリは言うんだけど、もちろんネグリとしても「非物質的労働」として巷間に言われているもの(ネグリが挙げていたのは、知的労働 travail intellectuel、認知的労働 travail cognitif、情感的労働 travail affectif、言語的労働 travail linguistique、とか)の重要性ってのはもちろん認めてるのね。でも、愚直に考えてみると、たとえば「何か」を考え出すという知的労働の場合、とりあえず「考え出す」というからには「生産」は行われているんだけど、その生産される「何か」ってのは普通で言う「物質的なもの」ではないよね。それで、会場からも「すべての労働は基本的に物質的である、ということ、そして非物質的労働の非妥当性、ということがよく分からない」という質問も出たんだけど、これけっこう単純に、immatérielっていう言葉が持つ「実質的でない、どーでもいい」っていう語感がよろしくない、ってことなんじゃないかなあ、とぼんやり思ったり。
「やっぱりネグリだなあ」と思ったのは、最後にちょっと出てきた欧州憲法について、「確かに細かいところを見ていくと、欧州憲法には、この寛容な私でさえ『うぇー』ってなっちゃう部分があります。でも、欧州憲法というものを認めることは大きな前進なのです。だから、フランスの今回の判断はちょっと『どうなのよ、それ?』と思いますね」って発言したこと。ほんと、とことんオプティミスティックなんだなあ。
オプティミスティック、と言えば、講演の最後に語られた、理屈で考えると「?」な次の言葉もそうなんだけど、そういうところが同時に抗い難い魅力でもあるんだよね。
われわれのうちには、(抑圧的なものを食い破るような)何か「怪物的なもの」が潜んでいます。それは、われわれが持っている「いかがわしさ」や「弱さ」というものから成るものです。大事なのは、「変革」とか「革命」とか、そういうでかいことを話し合ったり、ということではなく、われわれの持つこの「いかがわしさ」や「弱さ」というものを涵養し、自らを価値として高めていくことです。
この文言に「何で?」とか聞いても無駄でしょ? これ聞いて、「おっしゃー! いかがわしさ、オッケー! 弱さ、どんと来い! 怪物的なるもの、万歳!」って、鼓舞されることが重要なんであって。
やっぱり、アジテーターっすな。
となりのやつからひったくるとか脅し取るとか・・・
あ、興奮したらあかんな、うん。
>「世界の現状」の都合のいいとこだけ
見ちゃわないで、革命なんてできないぜ!
現実ってのはどっちにしてもアンビバレントな両義的な意味あいをもってるんだから、武器ってのは両陣営双方が同じように使えるもんなんだから、どっちが有効にそれを使うか、だよな。
>immat?rielっていう言葉が持つ「実質的でない、どーでもいい」っていう語感がよろしくない
かぁ、俺は逆に、「物質」とか「物」っていう概念から「存在の基本的な在り方」っていう意味あいを取り除こうとして、「宇宙は出来事で出来ていて、『物質』というのはエネルギーが・・・ある形をとるという出来事(こと)なのである。」「『もの』から『こと』へ。」重心をシフトさせようとしてアジってるんだけど。ネグリは諦めちゃったのかな?
我々の内に潜む
>何か「怪物的なもの」
については全く同感。
俺は「私のなかで暴れ回る化け物(魔物)に表現を与えて表出することができなければ、私は化け物そのものになってしまう。」
「正真正銘のまがい物になる方法。」
なんていう表現で言ってるんだけど、ええやろ!
でも、まあ、何にせよ、話の内容としては、ここに書いたようなことで尽きてる、と思う(やや、言い過ぎ)。というより、重要、というか、印象深いのはやっぱり、熱いネグリの語り口、だとか、しばしば見せる何とも言えない笑顔、だとか、そういう言葉にして表せないような部分だったな(って、こういうこと言うのは、うらやましがらせ、だろうか?)。
現状の都合のいいとこだけ見る、って、まあ、そういうオプティミスティックなところがネグリの魅力の一つであることは間違いないんだけど、おれはもうちょっと用心深く、というか、「最悪の事態を想定して、最善の手を尽くす」というアプローチを取っちゃうな。それに、アジテーションとしても、アジられる相手に納得してもらうには(そして、行動に移してもらうためには)、嘘でも「こういう心配するかもしれないけど、それ杞憂だよ」ってことが言えなきゃ。それが、ネグリには少し欠けていて、残念なことに、ある一部の「サークル」でだけ流通するような言説に留まっちゃってる。
ネグリってのは、ガチなのか戦略的擬態なのかは詳らかではないけど(7
で、宮本さんの、そういう「関係主義的」(っていうと、ちょっと誤解を生むインプリケーションを誘発しそうだけど)な見方って、もうどうしようもなく「もの」としてあるような、スカトロジックな在り方にはあんま有効ではないような気がするんだよね。そして、マルチテュードってのも、集合概念=関係概念として捉えられることにネグリは危惧を抱いていて、何でかって言うと、集合的関係的に捉えると、それの持つ特異性/個別性が捨象されるから、だって。だから、極端な話、1人でも「マルチテュード」なんだよね(まあ、こう捉えたらこう捉えたで、ある種の関係的概念が入ってる、とおれも思うけど)。
それはそうと、ネグリは「革命だ何だ、なんてのは、けっこうどーだっていい」って言ってたんだけど、これに関してはどう思う?
>「こういう心配するかもしれないけど、それ杞憂だよ」ってこと
をあんまりちゃんと言えるようになると、本物のカルト教団になっちゃう。
「スカトロジックな在り方」にこそ、出来事性。(「関係概念」ではなく)、があてはまるんだぜベイビー!
>集合的関係的に捉えると、それの持つ特異性/個別性が捨象されるから
>極端な話、1人でも「マルチテュード」なんだよね
ここでゲリラ教授に来て欲しいとこなんんだけど、彼が主張してるのはまさしくそのことだよな、うん。
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>「革命だ何だ、なんてのは、けっこうどーだっていい」
はっきり言っとくけど、俺も「革命」を成功させようなんてこれっぽっちも思っちゃいない。
本当に不可能な事は望む事も出来ない。
俺が望む事が出来る、その限界が、人類の限界であるかのように、
俺が全人類の希望の、その限界であるかのごとく・・・
生きて死ねれば、それで本望だよ。
はやしさんもそうだろ?
で、確かにねえ、おれ、「こういう心配するかもしれないけど、それ杞憂だよ」ってのに「嘘でも」って枕つけちゃったけど、それは若干まずいかもね。でも、「杞憂だよ」って相手を安心させるのではなく、「でも、こういうリスクもあるぜ」って、危険な部分を開示しておく、ってのは、やっぱり必要なことだし、大事なことだと思う。だって、そうすることで、危険回避の道が開けるかもしれないから。
「もの」と「こと」ってさ、結局「鶏が先か、卵が先か」って感じの話になってきちゃうと思う。だから、実践的には適材適所というか、「もの」的スコープと「こと」的スコープをうまく使い分け出来れば望ましいんだけどね。
ゲリラ教授の文、噂には聞いていたし、おれも以前読もうと試みたことがあるんだけど、何せ長いね。しかもどうも、何か「連帯を求めて孤立を恐れず」みたいな、ちょっと一昔前っぽい風味があるような……誤解かな、これ。まあ、ちゃんと読み込んでみよう。
で、「革命」はねえ、まあ宮本さんもおれも、こういう風に「」で括ったかたちで語っていることからも分かるように、いわゆる「政体転覆」とか、そういうことで「革命」って言ってるわけではないと思うけど……でも、何かしら具体的な何かが出来ればいいかなあ、と考えはするよ、おれは。でも、「千里の道も一歩から」とか、そういうみみっちいことを考えているわけでもなく……。
宮本さんの言ってること、雰囲気では分かるような気がするんだけど、「望み」や「希望」というのは、それこそ特異/個別なものであって、「人類」という「集合概念」が持つような「望み」や「希望」というものがイメージできない。
だから、おれも同じ思いを抱いているかどうか、ちょっと分からんかなあ。
運命を変えることが革命なのなら、その方法は?
これまで自分をドライブしてきた欲望を再開発/再構成し、
これまで自分が避けてきた恐怖を別の恐怖に置き換える事。
世界を、別様に「分節」する、世界の別様の分節をみる、こと。
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今までとは違う欲望を欲望し、今までとは違う恐怖を恐れること。
俺は、俺を捕まえた真理が、俺から離れることが怖いよ。
真偽を判断する最終基準である美的感受性が失われる事が・・・
というのも、まず、それが「お前ら、そんなちんけなもんを欲望してんなよ/こんな現状に満足してんなよ」という他者に向けられた言葉であるのなら、その「欲望」を云々する審級は別にあることになる。そうだとするのなら、その審級についてまずは語るべきなのではないか?
次に、上で言ったこととほぼ同じようなことだけど、自らの欲望について、その「再開発」の必要を説くのであれば、再開発されたすえの「欲望」はいかなるものとしてイメージされてるのか? それとも、「欲望を再開発する」という挙措がそれ自体として重要なのであって、それがどのような欲望に再開発されるのか、というコンテンツの部分は不問なのか?
それとも……。
ただ、何にせよ、そのような「欲望の再開発」を訴えることの根本には、「こんな世界ヤだなあ」という、ごく単純な思いがあるのだと思う。であるのなら、「欲望の再開発」だけを説くのでは足りないのではないか? なぜって、この「イヤな世界」で満足するような欲望に成り果てることも、「欲望の再開発」に違いないのだから。
そう考えると、「世界を別様に分節し、世界の別様の分節を見ること」にも、同じ危険、つまり、そうした「別様の分節」が「スペクタクルの奸計」でないと、どうして断言できよう?という問いが付いて回る。
おれは逆に、「真理」が瓦解し、「1=0」、つまり究極的な矛盾が「証明」されたら、どんなにかさっぱりするだろう、とか思っちゃう。それがなぜなのか、ってのは、とりあえず措いておいても。
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