小説の書き出し本 [本]

以前、本の書き出しの一文を集めた本を紹介したことがありますが、そういう書き出しを集めた本をまた何冊か入手しましたので、紹介します。

In the Beginning: Great First Lines from Your Favorite Books
これが今回紹介するなかでいちばんプレーンな書き出し本でしょうか。英語圏の作家にかぎらず、五百余の作品の書き出しの一文が、作品名についてアルファベット順にひたすら羅列されています。そういう意味で、「工夫のない本」とも言えそうですが、とりあえず四の五の言わずにただ書き出しの一文を味わいたいという向きにはこれで過不足ないでしょう。ただ、索引が作家名のものだけで作品名のものがないのがちょっとざんねん（もっとも、前述の通り、書き出しはその作品名についてアルファベット順に並べられているので、個別に作品名についての索引がなくても問題はないとも言えますが、でも、やっぱり作品名索引も個別に欲しかったな、という気はします）。

Great Beginnings: Opening Lines of Great Novels
これは「書き出しの一文」ではなく、もうちょっと長めに「書き出しの一段落」といったほどの分量がそれぞれの作品について収められています。ゆえに、上の In the Beginning に比べると収録されている作品数自体は少ないですが、特筆すべきはその章立てで、「作者の介入──作者と偽作者」といったいかにもおもしろそうな章題のもと書き出しがまとめられており、頭からじゅんじゅんに、あるいは任意のページをぱっと開いてという読み方しかできない In the Beginning とちがって、ある程度こちらの興味に沿うような読み方もできます。収められている作品は非英語圏のものもあり。索引は作者名・作品名のものが完備されています。個人的にこれはおすすめ。

First Paragraphs: Inspired Openings for Writers and Readers
これは「書き出しの一文を集めた本」というものから二重の意味で外れていて、まず、上の Great Beginnings と同様、「書き出しの一文」ではなく「書き出しの一段落」が扱われており、そして、本の主眼はそういう書き出しを「集めること」に置かれておらず、いくつかの選ばれた書き出しについて、分析・論評が加えられるという本になっています。ゆえに、「ただひたすら書き出しが読みたい！」という人には不向きでしょうが、たとえば作家志望の人などが書き出しの着想を得る手がかりとして読んでみるといいかもしれません。（ぼくは「ただひたすら書き出しが読みたい！」というタイプなので、ちゃんと読んでない。だいたい、小説を書く予定もないし）扱われている作品は非英語圏のものもあり。索引はなし。

Novel Openers
これはおそらく書き出し本の opus magnum とでも言うべきもので、扱われている作品は英語圏のものだけですが、書き出しの一文が採られている作品数はじつに一万と一千。索引も、作品・著者別のもののみならず、けっこう細かい主題索引も付いていて、索引好きはここだけ読んでもたのしめるかもしれません。索引にかんして、作品と作者の索引がいっしょくたになっているので、やや見づらく引きづらいという難点がありますが、まあ些細なことです。Great Beginnings と同様、書き出しの一文が主題ごとにまとめられていますが、その主題の立て方が「死」とか「愛」とか一般的なものなので、「主題がおもしろそうだからそこの部分を読んでみる」ということにはあまりならないのですが、そのぶん、前述の主題索引がじゅうじつしているのでその瑕瑾をおぎなってあまりあると思います。（ただ、分厚く、そして判型も大きめなので、寝ながら読むにはまったく適していない）