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「いっちょルーマニア語をちゃんとやってみようかな」という言を実行に移し、ちょこちょこルーマニア語を勉強しているのだけど、その勉強の一環としてシオランをルーマニア語で読んでいる。それで、シオランのルーマニア語原文を読んでは「答え合わせ」のような感じでそのフランス語訳を読むと、ルーマニア語原文とフランス語訳で異なる部分がけっこう目につく。例として、シオランの最初の本である『絶望のきわみで』の劈頭におさめられている「リリカルであること」のルーマニア語原書1ページ目と、その部分に該当するフランス語訳を、以下に訳してみる(訳にさいして、ルーマニア語原文とフランス語訳のちがいを埋没させないため、あえて直訳をこころがけた)。
(ルーマニア語原文からの訳)
どうしてわれわれは自分のなかに閉じこもったままでいることができないのか。どうしてわれわれは、自分たちから内容を取り除き、混沌として反逆的な過程を組織立てようとしつつ、それでも表現や形式を渇望するのか。それなら、親密なよろこびとともに、まったき興奮とわれわれの内なる激情にただ泥みながら、われわれのなかにある流動性に、それをあえて客観視しようとせず、身を委ねたほうが実り多いのではないだろうか。そうすれば、無限に豊かな強度とともに、そこで精神的な体験が最大限展開されるようなまったき内的発展を感じることができるだろう。多様で多彩な生が、最高の豊饒さがもたらす興奮のなかで、混ざり合い、発展する。波や音楽が高まっていくように、こうした発展の高まりの結果として、現実についての、また、精神的内容の複合的現れの感覚が生まれる。「驕り」という意味ではなくその「豊饒さ」という意味で自分を自分で満たすということ、内的無限や極限的緊張に苛まれること、それは、生気に満ちるがゆえに死ぬとはどういうことかを感得するにいたるまでの激烈さで生きるということを意味する。
E. Cioran, Pe culmile disperării (Editura "Fundația pentru Literatură și Artă"), p. 5.
(フランス語訳からの訳)
どうしてわれわれは自分のなかに閉じこもったままでいることができないのか。どうしてわれわれは、自分たちからすべての内容を取り除き、混沌として反逆的な過程を組織立てようとしつつ、それでも表現や形式を追い求めるのか。それなら、すべての興奮と内に秘めたすべての激情を楽しみながら、われわれのなかにある流動性に、それをあえて客観視しようとせず、身を委ねたほうが実り多いのではないだろうか。多様で多彩な体験が、最高の豊饒さにある高波や音楽のクライマックスに似た興奮を生み出すため、混ざり合う。「驕り」という意味ではなくその「豊饒さ」という意味で自分を自分で満たすということ、内的無限や極限的緊張に突き動かされること、それは、生きているがゆえに死ぬとはどういうことかを感得するにいたるまでの激烈さで生きるということを意味する。
E. Cioran, Œuvres (Gallimard-Quarto), p. 19.
まず気になるのが、「訳しもれ」と思われるような箇所がけっこうあること。でも、最初の1ページ目で訳しもれが生じるとは考えにくいし、そのうえ、ある訳者の訳をまたべつの訳者が校訂もしているようなので、そういう「訳しもれ」と思われる部分はもしかしたらシオラン自身が「ここはいらないな」という判断を下して削除したのかもしれない。ただ、それでも、たんなる「ニュアンスのちがい」では済まされないものを感じるし(たとえば、ルーマニア語原文では「多様で多彩な生」が混ざり合い発展した結果もたらされるのは「現実についての、また、精神的内容の複合的現れの感覚」だけど、フランス語訳だと「多様で多彩な体験」がもたらすのは「最高の豊饒さにある高波や音楽のクライマックスに似た興奮」ということになっている。ルーマニア語原文だとこの「興奮」は「多様で多彩な生」が混ざり合い発展する「場」のようなものとして描かれているので、ルーマニア語原文とフランス語訳では「興奮」の発生順序が逆になる)、何より、(少なくともぼくにとっては)ルーマニア語原文のほうが何を言っているのか(相対的に)分かりやすいので、どういう判断のもとこういうフランス語訳になったのかが気になる。
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