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世界がどうあるかということが神秘なのではない。
世界があるということ、それ自体がそもそも神秘なのだ。
(ルードヴィッヒ・ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』6.44 節)

「うそのようなほんとうのこと」──いくら考えても思いうかばない。これはたぶん、「世界」というものをそもそも「ほんとうのようなうそ」と受けとってしまう「くせ」のようなものが、「うそ」と「まこと」のあわいをにじませ、結果、「うそのようなほんとうのこと」を思いうかばなくさせているのだと思う。

正確にはいつのころかは忘れてしまったけど、小学校に上るまえには「言葉が通じない」という可能性に怯えていた。「言葉が通じない可能性に怯えていた」と言っても、「ある言明が誤解されて受けとられる」という個々具体的な言明に依存するような「通じなさ」に怯えていたのではない。そうではなく、「そもそも言葉で何かを伝えるというのは不可能なのではないか」という普遍的な「通じなさ」の可能性、ちょっと賢しらな言い方で言うと「コミュニケーションの根源的不可能性」、そんなものに怯えていたのだ。

そういう「言葉の通じなさ」から、つぎのような「世界の受けとりの不定性」まで、道のりはそう遠くない。たとえば、ある人が A というもの/事象を見て B という感覚印象を受けとり、それを C として表すとする。そのとき、ぼくがその A について B'(ここで B≠B' とする)という感覚印象を受けとり、それを C と表すとするならば、そのある人とぼくのあいだでは、世界の感受および表出について食いちがっているにもかかわらず、話は食いちがうことはなく、さらには、「じつは世界の感受とその表出がきみとぼくとではちがっている」ということの立証も、ほぼ不可能に近い。

「うたがいの道」はさらにつづく。上の例では、「世界」や「きみ」の存在はうたがわれてはいなかった。でも、「きみ」や、さらには「きみ」やぼくが住まうとされている「世界」はぼくのたんなる妄想で、ほんとうは「世界」や「きみ」なんてものは存在しないのかもしれない。こういう「うたがい」は、ぼくぐらいの世代だと「ドラえもんは植物人間になったのび太の夢の産物だった」という都市伝説や、あるいはそれなりに最近だと映画『マトリックス』の設定などによっていっぱんにもよく知られるところになったとは思うけど、それをどれくらい真正面から受けとるかは、人によって差があるだろう。

ぼくは、そういう「うたがい」を、真正面から、もろに受けとってしまった。もちろん、日々を暮らすなかで、そうした「うたがい」が前景化されることはあまりない。それでも、日々の後景で、それら「うたがい」がうごめくのを感じる。いや、もし「世界」が存在しないとすれば、「後景」なんてものも存在しないだろうから、目に映る(とぼくには感じられている)「世界」のすきまから「漆黒の無」がちらちら顔をのぞかせているのが感じられる、と言ったほうがいいかもしれない。とにかく、そんなわけで、「生きる」ということはぼくにとってはどこかよるべないこととしてある。

だから、もし「世界」がほんとうに存在し、そして「きみ」とぼくがほんとうに分かりあえているということが証だてられるのだとしたら、それこそ「うそのようなほんとうのこと」なのだけど、そんな日はいつまでたっても訪れそうにない。
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