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昨日の「イギリス首相、チューリングに公式謝罪」の翻訳記事は、望外の反響を呼び、多くの方に読んでもらえるところとなった(昨日だけでじつに1万人に近い人が、この記事を読みにきてくれた)。しかし、件の謝罪文は、もちろんないよりはましなことは当然のことであるが、それを措いても、いくつかの疑義を読み手には残さずにはおれないものであることもたしかだ。そうした疑義のひとつとして、「チューリングだけに謝罪すればいいというものではなかろう」ということがある。以下のBBCによる記事(原文)は、まさにそうしたことを問うている。
同性愛者に対する不当な扱いは日常茶飯事だった
なるほど、ゴードン・ブラウンたしかに、ゲイでありコンピュータの草分けであったアラン・チューリングが受けた「おぞましい」処置について謝罪したかもしれないが、首相はさらに歩みを進めるべきであるという意見もある。
多くのゲイたちが、チューリングが受けたのと同様の処置を施された。つまり、彼らの同性愛的嗜好を「治す」ため、強力な薬剤や電気ショックがゲイたちに与えられたのだ。
ドイツの暗号機エニグマを解読した戦時下のヒーローであったアラン・チューリングは、1954年、自ら命を絶った。
チューリングの自死は、公職を失ったことで引き起こされた抑うつ症と、強制的に摂取させられた薬による不快な肉体的副作用がからみあってのものとされている。
しかし、この才気あふれる科学者だけがイギリスの抑圧的な反ゲイ法の唯一の犠牲者であったわけではない。
1962年、ビリー・クレッグ=ヒル大尉は、医師の管理下のもと行われていた「嫌悪療法」のさなかに死亡した。この療法は、大尉が同性愛の嫌疑で逮捕されたさい、判事によって指示されたものであった。
アラン・チューリングと同様クレッグ=ヒル氏の妹アリソン・ブレイスウェイトさんはBBCに次のように語った。「ビリーの死(の真相)は軍隊によって隠蔽されていました。当時の死亡証明書によれば、ビリーの死は自然死であったことになっていたのです」。
BBCのドキュメンタリー番組がクレッグ=ヒル氏の本当の死因を明らかにしたのは、じつに1996年のことであった。
全面的謝罪
クレッグ=ヒル氏がハンプシャーにある軍病院で受けた治療は、まず氏に裸の男の写真を見せ、しかるのち吐き気を催させる薬であるアポモルヒネを投与するというものであることが明らかになった。
「その治療の基本アイディアは、裸の男性と吐き気とを連合させることにありました。そのやり方はじつに荒削りで、まったく効果のないものでした」とブレイスウェイトさんは言う。
「不幸なことに、医師たちは兄に水分をまったく与えていなかったのです。だから、兄は脱水症状による発作で息を引き取りました」。
ブレイスウェイトさんは、ゴードン・ブラウン首相はチューリングになしたのと同様の謝罪を、彼女の兄であるクレッグ=ヒル氏ならびに、その性的嗜好により「治療」を余儀なくされたすべてのゲイたちに対してもするべきだと考えている。
「この種の処置は、同性愛者たちに対して常時あたりまえになされていました。だから、そうした処置によって苦しめられた人たちに全面的に謝罪するのが筋だと思います」。
「それは、誰にも迷惑のかからないやり方で自らの性的嗜好を明らかにしただけの人たちに対する、ほんとうひどく、そして何の正当性もないような罪なのです」。
「そのように苦しみを味わった人たち全員に謝罪してこそ、ゴードン・ブラウンは国家によってまちがったことがなされたということをちゃんと認めることになるでしょうし、そうした過ちがふたたび犯されることもなくなるでしょう」。
ブレイスウェイトさんのこうした意見よりも、ゲイ活動家であるピーター・タッチェル氏はさらに踏み込む。タッチェル氏は、前世紀に迫害された概算10万人の同性愛者たちに対する謝罪を求めているのだ。
タッチェル氏は言う。「チューリングのような有名人ゲイにだけ謝罪をするというのは、首相のすることとしてまちがっている」。
「チューリングとは異なり、多くの一般的ゲイおよびバイたちは、ホルモン治療という選択肢も与えられず、刑務所に直行だった。そうした人たちにもまた、謝罪が必要だ」。
しかし、皆が皆こうした意見に賛成なわけではない。
ロンドンの俳優であるイアン・バーフォード氏 (76) は、1960年代に生涯にわたるパートナーとなるアレックス・カネル氏と暮らしていた。もちろん、そのころ同性間で性的関係を持つことは法によって禁じられていた。
バーフォード氏は言う。「われわれのやっていたことは違法なものであった。もしわれわれのことが知られるところとなっていたら、同性愛禁止法違反のかどで2年間のきつい労働を命じられたことでしょう」。
「そんなわけで、同性愛が法で禁じられている状況に対して大騒ぎをしたり、人目につく振る舞いをするわけにはいかず、ただじっと頭を垂れるよりほかなかったのです」。
「われわれにとっていちばんの危険だったのは公共の場所、たとえばトイレだとか、駐車中の車のなかなどでした」。
「当時の警官にとって、同性愛者を捕まえることは、簡単に昇進するための方図だったのです」。
「警官たちは自らゲイのふりをしてゲイを引き寄せ、声をかけて反応したものを逮捕していった、というわけです」。
「非現実的」な謝罪
しかしバーフォード氏は、首相はゲイに対して全面的に謝罪する必要はない、と考えている。
「ブラウン氏がゲイひとりひとりに謝罪して回る、というのは、いかにも非現実的です」と氏は言う。
「謝罪の対象としてアラン・チューリングを選んだことには、じゅうぶんな理由があります」。
「というのも、彼は警察によって迫害されたのみならず、政府によってその職をも取りあげられたのですから」。
「そして医学界のやり方も、チューリングを最終的に死に至らしめるような処置を施したことで、その罪を倍加させています」。
元政府関係者であったランス・プライスも、こうした見方を採っている。
「アラン・チューリングという名のある人間を取りあげ、そしてゲイ問題一般に光を当てるため、首相はとくにチューリングに謝罪した、と言えるでしょう」。
「チューリングはイギリスのためにとても重要なことをしてくれました。ブラウン氏はチューリングのケースにおける際立った不正をよく承知しており、ゆえに、そうした不正を正したかったのでしょう」。
ゲイ活動家グループ「ストーンウォール」も、首相の謝罪対象を広めることを求めていない。
「しかしながら、チューリングは、その愛のかたちゆえに犯罪者に仕立て上げられた何千人ものゲイの一人に過ぎない、ということを忘れるべきではありません」とストーンウォールのスポークスマンであるデレク・マンは言う。
イギリス政府は、ブラウン首相がピーター・タッチェルの「ゲイへの全面的公式謝罪」の要求に応えるかどうか、明らかにしていない。
しかし、政府報道官は次のように言う。「首相は、アラン・チューリング、そしてチューリングと同じく同性愛嫌悪的な法によって有罪宣告を受けた何千ものゲイの人たちが、何ともひどい扱いを受けていた、と言っていたではありませんか」。
(ジュリアン・ジョイス)
実際に法の裁きを受けた人達全員に謝罪するのは、これは当然のことで、それをやらないというのは、政治的保身からでしょうね。
首相が謝罪したら、それに対してかなりの反感を持つ国民が未だに数多いることでしょうから。
流石に何千何万人に及ぶ人々全員に対し一人一人にまでとはいかないでしょうが、全くもって非合理的な根拠で法の裁きを受けた人々に対して、「チューリングに紛れて」ではなく、少なくとも「正面から」首相が全員に、公式に謝らないといけないのは当然のことだと思います。
(お名前を、首相が読み上げるのは、物理的に不可能だろうという意味で、謝罪の書面に、ちゃんと全員のお名前を記載すべきでしょう。あるいは、本人、遺族にその文面が行き渡るようになどすべきと思います。)
昨日のエントリを読ませていただいて思ったのですが、例え不当な扱いを受けたとしても、数学やCSでこれほどまでに知名度抜群のチューリングだからこそ、その悲劇は今まで人々の話題にのぼってきたわけです。しかし、名も無い人で、第二次大戦や冷戦に絡んだ国家機密を知りすぎた故に、「使い捨て」と「話題にのぼらない」という二重の意味で「消された」人々も、数多いらっしゃるのではなかろうかと。
そして国家機密を知りすぎた故に「消された人々」については、ゲイという、いわれなき罪で裁かれた人々のようには、今更一人一人のお名前まで特定するのは不可能でしょうから、それこそ「せめてチューリングを代表に据えて」謝っていただきたい、そして民主主義への貢献もちゃんと讃えていただきたいと、そう思います。(まあ、そこまでイギリス国民でない私が強く言うのも、変な気もしますが。)
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