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何だか大仰なタイトルを付けてしまいましたが、いま言語哲学ゼミのウェブディスカッションの課題でジェニファー・ソールという人が書いた『単純文、置換、そして直感』という本を読んでいて、これがまた煮え切らないというか、人の説の批判ばっかしていて自説の開陳がほとんどなされないもどかしい展開を持つ本なんですが、それはともかく、単純文における同一対象指示語の置換が直感的にこけると思われる事例ってのはやはり興味深いな、と思います。
同一対象指示語というのは、説明の必要はないかもしれませんが、身近な(そしてソールの本に出ずっぱりな)例で言うと、「スーパーマン/クラーク・ケント」のようなものや、作家などの実名/筆名のようなものが当てはまります。そして、基本的にこのような同一対象指示語というのは、ある文におけるある同一対象指示語の片方の現れに、その同一対象指示語のもう片方を代入しても文の真理値は変わらない、とされます。たとえば、
ルイス・キャロルは1832年に生まれ、1898年に死んだ。
という文における「ルイス・キャロル」を、その本名である「チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン」に換え、
チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンは1832年に生まれ、1898年に死んだ。
としても、元の文と真理値は変わらない、というわけです。
さて、上で「基本的に」と書いたのは、「ある文におけるある同一対象指示語の片方の現れに、その同一対象指示語のもう片方を代入しても文の真理値は変わらない」とは言えない事例が存在するからで、その代表例が「内包的文脈」と呼ばれる「〜と思う」や「〜と信じる」や「〜を知っている」などのかたちを有する文になります。たとえばいま、Aさんが「ルイス・キャロルは『不思議の国のアリス』を書いた」ということを知っているとします。このときとうぜん、
Aさんはルイス・キャロルが『不思議の国のアリス』を書いたことを知っている。
という文は真になります(当たり前ですね)。さてここで、「ある文におけるある同一対象指示語の片方の現れに、その同一対象指示語のもう片方を代入しても文の真理値は変わらない」という(平叙文には適用できた)規則をここにも適用して、上の文の「ルイス・キャロル」を「チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン」に換えて以下の文を得たとします。
Aさんはチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンが『不思議の国のアリス』を書いたことを知っている。
しかし、もしAさんが「ルイス・キャロルの本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン」ということを知らなければ、上の文はとうぜん偽となるので「ある文におけるある同一対象指示語の片方の現れに、その同一対象指示語のもう片方を代入しても文の真理値は変わらない」という規則は内包的文脈を扱う文においては成立たない、ということが分かります。
さて、それでは、内包的文脈が現れる文には「ある文におけるある同一対象指示語の片方の現れに、その同一対象指示語のもう片方を代入しても文の真理値は変わらない」という規則は適用できないとして、平叙文においてはこの規則を無差別に適用できるのか?ということが問題になってきます。たとえば、つぎの文を考えてみましょう。
クラーク・ケントが電話ボックスに入り、スーパーマンがそこから出てきた。
言うまでもなく「クラーク・ケント=スーパーマン」、そして上の文は平叙文なので、「ある文におけるある同一対象指示語の片方の現れに、その同一対象指示語のもう片方を代入しても文の真理値は変わらない」という規則を適用して得られる
スーパーマンが電話ボックスに入り、クラーク・ケントがそこから出てきた。
という文も置換前の文と同じ真理値を持つはずです。いま、電話ボックスにスーツ+メガネ野郎が入り、そしてそこから全身タイツ野郎(とうぜん、胸の部分にはあのSマークがある)が出てきた、としましょう。すると、置換後の文はどうにも実情を捉えているようには思えません。何がおかしいのか?
……と、このようなことがソール本では論じられており、おれが読んだところまででは、けっきょくこの現象をどう捉えればよいのかについてはまだよく分からないのですが、個人的には、同一対象指示語の置換が失敗する「単純文」は、じつは「偽装された内包的文脈を有する文」なのではないか、と思ったりしてます。
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