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わたしはこれまで、「有用」なことはいっさいなしてこなかった。また、わたしの発見はいずれも、直接的にせよ間接的にせよ、そして善きにつけ悪しきにつけ、世界の安穏に何らの変化ももたらさなかったし、これからももたらしそうにない。……これらすべての実践的基準を以て判断すれば、わたしの数学人生の価値は「ゼロ nil」である。(G. H. Hardy, A Mathematician's Apology。邦訳は『ある数学者の生涯と弁明』としてシュプリンガーから)
これだけ読まされると、人によってはもしかしたら、「いや、わたしのやってきたことはほんとうに役立たずで、お恥ずかしいかぎりです……」と、数学者が消え入るような声でする文字通りの「弁明 apology」と受け取ってしまうかもしれない。しかし、全編これ「役立たず礼賛」とでも呼ぶべき一編のほとんど末尾近くに現れると、これはもう「誇らしさ」に溢れた一文であることは明らかで、タイトルの「弁明」という言葉も、「あんたら、そんなのべつまくなしに『役立つこと』ばっかやってて、何がたのしいの?」という皮肉にしか響いてこないからふしぎだ。
「役に立たないこと」というのは、これまで執拗にこのブログでも称揚してきたわけだが(参考エントリ)、言うまでもなく、「役に立たないことを言祝げる」ということは、それだけでしあわせなことだ。食うに事欠くような身であれば、「役に立たないこと」なぞにうつつを抜かし、あまつさえそれを称揚するような余裕はないであろうから。だから、「役立たないことはすばらしい」と言いうる人は、とりあえず明日の食べものに困ることもなく、「有用性」の外に出てなお、経済的にどうにかやっていけるという「恵まれた」人びとである。
とはいえ、だからといって、「役立たぬことの称揚」を、ひたすら「ぜいたく」なもの、富の偏在を表すものとして糾弾するのは、性急すぎる。そういう事態に直面したとき、「持たざるもの」、あるいはそういう「持たざるもの」に共感を覚える人たちが言うべきことは、「われわれ(彼ら彼女ら)にも『役立たぬこと』を享受させよ!」ということであるべきだ。「生き延びさせよ」という以上の「たのしみ」をも要求する、あるいは与えようとする「ずうずうしさ」、あるいは「あつかましさ」、これはひじょうにだいじなもの、だと思う。
というわけで、おれにとっては色んな意味で、「役立たぬことの称揚」というのは、大切なものなのである。
全くもって同感ですね。どうでもいいことを理屈づめて考えてたりすること自体が楽しわけで、それが「目的」から何らかの「手段」でしか考えられない人がぼくの友だちなんかでも多い気がしますね。
それと学問ってのを無理矢理社会との関連における「有用性」のみで価値づけてしまうのはいかがなもんかな〜とも思います。大学が就職予備校化している気がして、なんだかとても哀しいですね。
とここまで書いて気づいたのですが、どちらかといえば参照エントリ寄りのコメントになってしまいました。
ぼくは基本的に、何かが「たのしい」と言われうるために、「役立つ/立たない」という二分法はまったくもって無関係であり、何かが「役立たない」から「たのしい」ということも、またぎゃくに、「役立つ」から「たのしくない」ということも、固定的には成立たない、と思います。だから、そういう意味では、片方の「役立たぬこと」のみを称揚しにかかるのは、ひるがえって「役立つこと」を不当に貶める危険もあるのですが(とはいえ、参考エントリもあわせ読んでくれれば、そういう誤解の懼れもないだろうと思います)、それにしても、世の「役立たぬこと」に対する風当たりは思ったよりつよく、ゆえに「だったら『弱いもの』を擁護してやろうじゃないか」と思ってしまうのです(もっとも、自分が「おもしろい」と思うものに「役立たぬもの」が多いことが、それらを称揚するまずもっての理由でしょうが)。
大学の「就職予備校化」ということが言われてけっこう久しいですが、さいわいなことにぼくの周りにはあまりしゃにむに就職活動に邁進するという人もあまりおらず、まあ「類は友を呼ぶ」といった手合いでしょうか、それほど「何だかなあ」という感慨はいだいたことはありませんが、じっさいにそういう「しゃにむに就職活動に邁進する人」が周りにわんさといたなら、(その人たちにはまったくの咎はないにせよ)ちょっと「うーむ」となっていたでしょうね。だいたい、長期的には何が役立って何が役立たないのかなんて分からないのですから、専一に「いま/ここ」でのみ「役立つ」と言われるものを追うのは、「有用性」の肩を持つ立場からも得策ではないはずなのですが。
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