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Id quod per aliud non potest concipi, per se concipi debet.
(Spinoza, Ethica, Axioma II)

ルーマンは『社会の社会』のエピグラフとして、上記スピノザの文章「他によって把捉できないものは、それ自身によって把捉されなければならない」を掲げている。このエピグラフを通じてルーマンが言いたいことは、これ以上ないくらい明らかだ。すなわち、社会はまさにスピノザの言う「他によって把捉できないもの」なので、社会はそれ自身、つまり社会自身によって把捉されねばならない(だから、このエピグラフを掲げる書物は正当にも『社会の社会(による把捉=解明=説明)』と名づけられている)。

この「社会はそれ自身、つまり社会自身によって把捉されねばならない」という主張は、少しでもルーマンの言うことにふれたことのあるものにとっては、それなりに親しいものであろう。しかし、ひるがえって、この主張それ自体の正当性を問いただし始めると、道のりは難儀なものであることに誰しも気づかざるをえない。まず第一に、社会というものはほんとうに「他」によって把捉=解明=説明のできぬものなのか、これが問われなければならないのだし、そのうえで、じっさいに「社会自身による社会の把捉=解明=説明」を提示しなければならないのだから。

ルーマンのじっさいの書きものにおいて、おれの知るかぎり、如上の第1の点、つまり「社会は社会以外のものによっては把捉=解明=説明」できないというのはほとんど「公理」のような扱いを受けており、ゆえに、その「不可能性」が主題的に問われることはない(じっさいに公理を扱う学の場合、それら公理の問いただしというのは、ほぼ必須のことであるのだが)。ルーマンの書きものにおいては、そのような「不可能性」が説明抜きに前提とされたうえ、「それじゃあスピノザの言うように、それ自身によって問うしかないんだな」と、「社会自身による社会の把捉=解明=説明」がもっぱらにされる。

もちろん、「社会」というものを素朴に捉えたかぎりでも、その外延はほとんど「すべて」を飲み込むかのようであり、ゆえに、「社会について考える」という営みにしても「社会」のうちで行われるほかなく、いきおそうした営みは再帰的なものとなる。つまり、人であれ人に付随するあれこれ(たとえば、「社会についての考え」など)であれ、何も「社会」の外に出ることはできない(おれ個人としては、この命題自体からして相当疑わしいと思うが)。ゆえに、社会は社会自身によって把捉=解明=説明されるほかない。

しかし、「そうするほかない」ということは、「そうできる」ことをまったく意味しない。元のスピノザの文言を参照して言えば、そこで言われていたことはただ、「他によって把捉できないものは、その把捉されんとするものがそもそも把捉可能であるとすれば、それ自身による把捉がなされるほかはない」ということに過ぎず、「他によって把捉不能であれば、それ自身によって把捉可能である」というようなことは微塵も言われていないのであって、つまり、社会というものは、「他」によってであれ「それ自身」によってであれ、そもそも把捉=解明=説明のできぬものなのかもしれないのだ。

では、ルーマンのしたことというのは、「そうするほかないが、そうしたからといって事態は一向によくならない」というネヴァーランドを目指すようなことであったのだろうか? いまのおれには、それを判断する準備はない。しかし、彼のやったことがかりに「ネヴァーランドを目指す」の類いであっても、それらが無駄であったということを、ただちには意味しない。ただ、いまのところ、「社会を理解する」というルーマンのそもそもの狙いから言うと、「壮大な無駄=粗大ゴミ」めいた現れをしてしまっていることは、ざんねんながら事実である。

全体としてゴミならゴミで結構、でも、まだまだ使える部品はあるよ、とそれぐらいの鷹揚さを以て、ルーマニアンのみなさんにはがんばってもらいたい(何だかよく分からない激励文になってしまった)。

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