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前回の末尾で言ったように、『プリンキピア・マテマティカ』序論において、「記号」の表現力にともなう「分かりにくさ」を少しでも減ずるための努力がなされる。今回から数回にわたって、そうした「努力」を少しずつ見ていこう。
全部で3章ある序論のうち、その1章目は、現在では「述語論理」と呼ばれるものの構文論に充てられる。そして、その第1章の初めにおかれるのは「変数 variables」の説明である。
言うまでもなく、数理論理学にかぎらず、「何でも表せるがそれ自体としては何でもないもの」であるこの変数は、数学にべらぼうな進展をもたらした。具体的な詳細は省くが、ヴィエト、そしてデカルトによってなされた「数の代わりに文字を使う」という発想は、そもそも「普遍学」としての様相がつよかった数学を、さらなる「普遍」の領域に突入させることになる。
そのような変数について、ラッセル=ホワイトヘッドが与える「特徴づけ」は以下の通りである。
- 変数が指し示すもの(denotation)は曖昧であり、したがって未定義である。
- ある1つの変数は、ある1つ文脈においては、一貫した意味を持ちつづける。ゆえに、いくつもの変数が、ことなった意味を持ちつつ、ある1つの文脈内に現れることができる。
- 2つの変数を考えた場合、それらの変数域が同じなら、1つの変数への値割当てがもう1つの変数への値割当てにもなるが、それら変数域がことなる場合、ある1つの変数への値割当てを、違う変数域を持つ変数にも実行した場合、結果として得られる文全体は、無意味なものとなる。
どれも当たり前のことを言っているようでもあるが、しかし同時に、ラッセル=ホワイトヘッド(とくにラッセル)の考え全体を考慮にいれると、なかなか興味深いことを言っているようにも思われる。とくに、ここでの特徴づけの1つ目は、ラッセルの記述理論(theory of descriptions)、およびフレーゲの意味論の影が色濃い(じじつ、第3章の「不完全記号」においては、ラッセルの記述理論がそれなりにextensiveなかたちで論じられる)。ただ、そういうことを度外視すれば、「変数」という言葉からわれわれが通常考えるようなことを、この1つ目の特徴づけは言っている。
2つ目の特徴づけは、やや注意が必要な部分で、むしろこれの逆、つまり、「ちがう文字が用いられていても、それらは同じ指し示し(denotation)を持ちうる」とでもしたほうが、初学者には親切に思う(もっとも、「初学者」なんぞというものは『プリンキピア』は読まない、という想定はあるのだろうが)。つまり、ある1つの文脈、より限定的に言えば、ある1つの式において、たとえば"x=y"という2つのことなる変数があっても、それらのdenotationはことなるとはかぎらない。ただし、ある1つの変数の複数回にわたる現れ、つまりは"a+b=a"などにおけるaのようなものは、それらの文脈を通して一貫した意味=指し示しを持つ。
3つ目の特徴づけは、これだけではやや分かりにくい。ここで少し用語説明をしておくと、変数域とは、ある変数が取りうる値の集合を指す。つまり、aという変数の変数域が正の整数であり、それとはことなるbという変数域もaと同じ場合、それらに同じ値を割当てても、それらが登場する「文=式」(以後「文」と「式」はinterchangeableなものとして用いる)の意味は有意味(ここで言われる「有意味」は、かならずしもそれらの値代入後の式が「真」であることを意味しない)となるが、たとえば、aの変数域が正の整数、bの変数域が「人間」である場合、たとえば「bはa歳である」という文の変数両方に「太郎」を代入したら、結果として得られる文は端的に「無意味」になる。このように、文に現れる変数への値の割当ては、それら変数の変数域を顧慮して行なわれなければならないことが示される。
このように、「変数」という、ほぼ誰にとってもなじみ深いものであっても、このmagnum opusにあってはなかなかめんどくさげな説明と注意が与えられる。そして、じじつ、この「変数」ひとつをとっても、その背後にはなかなかにめんどくさい事情、そして考えが広がっているのだが、とりあえずはここで書いたような注意だけでじゅうぶんだろう。次回からは、PMの体系で用いられる述語論理系を、できるだけ駆け足で見ていく。
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