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カントの美学論について執筆するにあたって、その参考資料としてボードレールの『藝術論』Folio版を用いていたのだけど、論文に引用するにはFolio版じゃまずいかな、ということで、図書館にプレイヤッド版全集を借りに行った。
すると、そのプレイヤッド版全集の並びに、ヤコブソン、レヴィ=ストロースを筆頭に総勢20名余が寄ってたかってボードレールの「猫たち」を分析しまくっている"Les Chats" de Baudelaire (翻訳。ただし、原著と翻訳書の厚さのかねあいから考えるに、抄訳だと思われる)があったので、思わずこれも借りてきてしまった。
まだ借りてきたばかりで、その分析の詳細や、あるいは詩の読解に構造分析的手法を用いることの是非についてはまったくコメントできないのだが、そういう「詩の構造分析」云々ということの遥か以前の、端的に「詩を読む」ということについて、いろいろと考えさせられた。論より証拠、というわけではないが、とりあえずこの書で分析されているボードレール「猫たち」原文を見てもらおう。
Les amoureux fervents et les savants austères
Aiment également, dans leur mûre saison,
Les chats puissants et doux, orgueil de la maison,
Qui comme eux sont frileux et comme eux sédentaires.
Amis de la science et de la volupté
Ils cherchent le silence et l'horreur des ténèbres;
L'Erèbe les eût pris pour ses coursiers funèbres,
S'ils pouvaient au servage incliner leur fierté.
Ils prennent en songeant les nobles attitudes
Des grands sphinx allongés au fond des solitudes,
Qui semblent s'endormir dans un rêve sans fin;
Leurs reins féconds sont pleins d'étincelles magiques,
Et des parcelles d'or, ainsi qu'un sable fin,
Etoilent vaguement leurs prunelles mystiques.
ごくたんじゅんに、その形式面から言うと、4行の連が2つと3行の連が2つ、という構成にこの詩はなっている。さらに、韻律を見ると、1連目はabba、2連目はcddc、3連目はeef、そして4連目がghgという具合になっているが、3連目の"fin"と4連目の"fin"は当然呼応しているはずなので、これら3連目4連目はあわせてeefgfgというまとまりとして捉えうる。だから、形式的にはこの詩は4ブロックからなるが、韻律をあわせ考えると、3ブロックとも解釈できる。
さて、ここまではどうにかすれば日本語にもポーティングしうる側面である(もちろん、韻律の翻訳のむずかしさというのは相当であることも承知しているが)。話が難儀になってくるのは(そして、「詩を読む」という点から言うと、その営みが輻輳的になってくるのは)、これら韻律を受け持つ単語の「性」を考えたときだ。するとこの詩は、女性名詞をf、男性名詞をmとすると、fmmf mffm ffm fmfとなっている。つまり、前述のアルファベットで表した韻律で、女性名詞を小文字、男性名詞を大文字で表し、かつ、グルーピングを韻律のまとまりにしたがっておこなうと、aBBa CddC eeFgFgと、ひじょうにきれいなかたちになっていることが分かる。
こうしたことがじっさいの「詩を読む」うえでどういう効果を持っているか、その詳細を述べることはできないが、これら名詞の性の別も汲んだ翻訳というのが絶望的にむずかしいであろうことは、理解してもらえると思う。しかし、言語表現、とくに「藝術」と呼ばれるそれは当然、その一挙手一投足に神経がつかわれているので、こうしたfiguresを無視するわけにはいかない。ほんとうに、むずかしいことだ、と思う。
とはいえ、われわれのような、もっぱらそれら詩作品を無責任に読み、そしてたのしめばいいようなものたちは、この詩の最終連末2行の「そして金の粒子が、まるで細かい砂粒のように/猫たちの瞳にぼんやりと星を瞬かせる」に、何とも言えぬきもちよさを感じていれば、それでいい。
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