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前回は「批判検討編」の前編として、ゲーデルの神の存在証明に見られる概念的側面の問題点を検討した。今回は、その方法論的側面を、とくに第3回で設定された公理3を中心に検討する。
ただ、と最初から「言い訳モード」全開で言ってしまえば、前回に予告したように「ややテクニカル」な検討というのは、諸般の事情から見送らざるをえなかった。その事情の一端は、もちろん個人的な忙しさということもでかいのだが、何より、述べられる結果のテクニカルな側面を、それほどの前提知識を仮定せずに述べなおすというのは、思ったよりも難事業であったということにある。そうしたこの稿に見られる欠は、今後また同様の機会があればあたうかぎり補填していきたい。
さて、第1回でも述べたように、ゲーデルの証明はそもそも、ライプニッツのそれを現代的にリライトしようとするものであった、ということを確認しておこう。また、ライプニッツはデカルトの神の存在証明について、「神の存在可能性を仮定しているからダメだ」と言っていたのだった。第1回では軽くふれてすませたこのライプニッツの発言を、やや詳しく見てみよう。
「もっとも完全な存在」に関するデカルトの議論は、そうした存在が理解されうる、つまり、そうした存在は可能であることを仮定している。このことが、つまり、「もっとも完全なる存在」という概念があることが仮定されているのだから、そこから、そういう存在が存在する、ということがただちに導かれる。というのも、われわれはそうした概念が、「存在する」ということを含むようにしてあるのだから。しかしながら問題は、はたしてそうした存在を認知する力がわれわれにはあるのかどうか、つまり、そうした概念がわれわれの現実に根づいたものなのかどうか、そして矛盾なしにはっきりと理解されうるものなのかどうか、ということなのである。
ライプニッツは、そもそも「神」なる概念を「考えること」自体、それは正当なことなのか?ということを問う。言いかえれば、ある種のセッティングのもとでは(可能世界的な言葉づかいで言えば、われわれのいるこの世界と矛盾しないような可能世界において、ということだ)、たしかにそういう存在者は考えうる、ということをまず示すことを要求する。そして、これに対してゲーデルは、命題2において「神の存在可能性」を証明し、このライプニッツの要求に応えたのだった。
しかし、ゲーデルはほんとうにライプニッツの要求、つまり、神の存在の絶対性を云々する前に、そうしたものの「可能性」をまず問え、ということに、十全に応ええているだろうか? 容易に予測できるように、答えは「否」である。というのも、じつは、導入時から「問題含み」と言っていた「実在的性質が寄せ集まって作られる性質はまた実在的性質」ということを述べる公理3と「神の存在可能性」とはまったく同値なのである。つまり、デカルトがしたように「神の存在可能性」をさいしょから認めることと、ゲーデルがしたように実在的性質の閉包性を認めることはまったく同じことであり、口汚い言い方をすればゲーデルは、表面上は「神の存在可能性」を匂わせないやりかたで、裏口からそれを「密輸入」していたのだ。
ここで本来なら、その同値性をじっさいに「示す」べきであり、また、一般的に分かりやすいかたちでの別証明を書き下ろす努力などをしていたのだが、あきらかに「無茶なこと」に取り組んでいることにとちゅうで気づき、残念ではあるがそれは断念した。ただ、直観的に言えば、公理3で言うように、(じっさいには無限の)実在的性質の寄せ集めがまた実在的性質を構成することを認めることは、神を「すべての(じっさいには無限の)実在的性質の寄せ集め」と定義している以上、その可能性を認めることにならざるをえない、と言えるだろう。
ゆえに、ゲーデルの神の存在証明は、概念的な問題点もさることながら、純形式的に見た場合も、端的に失敗している。しかし、たとえゲーデルの証明が成功していようが失敗していようが、さらには神の存在がじっさいのところ必然的であろうとあるまいと、そもそも神がいようがいまいが、「番外編その2」で言われた興味関心からすれば、どうでもいいことだ。重要なのは、ある道具立てをもってすれば、ある言説は(それなりに)分かりやすいかたちで伝達可能となり、そして、それについての疑問の余地のない決定的な判定が可能となる、そうした「ツール」のありがたみ(の一端)が伝われば、この稿の任はとりあえずはたせたことになる。
というわけで、とりあえず「ゲーデルの神の存在証明」についてはおしまいですが、「ゲーデルねた」はひそかにあといくつか用意してますので、おたのしみに(って、いつになることやら、ですが)。
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