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精確に表題のような文言だったかどうか定かではないけど、いわゆる「艱難辛苦のススメ」のようなものを知るのは、おれぐらいの世代だとまず間違いなく、のび助がのび太にえんえん2ページにわたってする説教のなかでだろう。

たしかに、こと「知的」なことに関して言えば、そこで扱われるものごとはおうおうにしてむずかしいもののほうが面白く、そしてとくに若いものの心をとらえる(吉田健一はどこかで、自分がヴァレリーに手を出した理由はそれが「むずかしい」との評判だったからだ、と述懐しているし、このおれにしたって、学部卒論で扱った対象を選んだ理由は、それが「きわめて難解」と評されていたから、だしね)。かんたんな問題を解いても、あまり面白くないし、何より、問いを解いたときのあの「熱い感じ」が襲ってこない(こう言ってももちろん、重要なのは「問いを解く」ことそのことに専一にあるのではない)。

だが、のび助の説教に鼓舞されたのび太のように、「日常」にある困難に自らぶつかっていくというのは、上の例と類比的には考えられまい。そもそも、そこで問題になっているのは「面白さ」などではなく、人間精神の涵養などなど、であったりするのだから。ただ、そうした「日常、そこにある困難」を、「好む」という自覚のもとでかどうかはともかく、「人間精神の涵養」とかそういうこととはまったくかかわりなく選びとってしまう人間が、かならずいる。それは、業である、と言われもし、そして、破滅型、とも言われる。

しかし、ものごとには「始め」と「終わり」があるように、何にしたって「創造」と「破壊」はワンセットだ。もちろん一般論として、破滅型としてその生を歩むより、ほどほどのところで妥協してそれなりに幸せに暮らしたほうが、よっぽどいい。だけれども、そうした「業」を背負った人は、まさに「内発的」なものとして、そうした道を歩んでしまう。ちょうど、階段はかならず右足から登ることに決めている人が、あるとき左足から階段を登りはじめてしまい、そのことに階段を上りきる直前で気づいてまた階段を降りていくようなものだ。

繰り返す。この世にはどうしても破壊的にしか生きられない人がいる。そして、ある位相ではその「破壊」が「創造」を裏打ちするものとして肯定されるように、そうしたものたちの生も肯定されなければならない。そうでなければ、とても浮かばれないではないか。

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"nul""l'un"……。「問いの書」を中途でほっぽり出してる事を思い出してしまった。
Sita 2007/06/21(Thu)21:47:00 編集
自分のこれまでの人生(たいしたことのない人生だったが……)を考えてしまった。はやしさんの文章が、いや単語一個一個がズシズシきた。久しぶりに単語一個一個に注視しながらじっくりと読ませてもらった。全部自分に跳ね返ってきた。
英司 2007/06/22(Fri)04:46:00 編集
はやしさん、久々に唸る文章を読ませていただきました。左足はル−チンワ−ク(とりあえずの業績稼ぎで、あんまりたいしたことないし、身分保証のためのしがない研究?)右足は世間があっと驚く?(池田清的に言えば学術的にすんばらしい業績は一般ピープル的にはゴミみたいなもの、世間的にすばらしいものは学術的にはゴミみたいもんやとも)世界制覇の野望、研究をひそかにこつこつやり抜く粘りが・・・・。天才は両方とも右足で歩くようなもんか。私みたいな凡人は天才にあこかれつつも地味なル−チン仕事をこつこつこなすしかないわけで。でも志しは天空を目指したいもんです(Gオ−ウェルやったか?)。以前の読み人知らずの詩は 英国のクモの分類学者T.サボリ「動物の階層」河出書房新社、絶版からの引用でした。
ジャック・どんどん 2007/06/22(Fri)16:07:00 編集
『問いの書』は、おれも中途でほっぽてある、と言うか、あれを読んでると全然べつのことを考えはじめてしまったりなんだりで、あまり進まない。
はやし 2007/06/23(Sat)07:56:00 編集
ひでさんがぼくの文章をずっしり受けとめてくれたのは、たぶん、ひでさんもぼくもどちらかと言えば「破滅型」の人間で、そして、そこに絶望と、ある種の恍惚を感じているから、だと思います。「困ったものだ」で済めば話は早いんですが、とりあえず話を「主体」側に限ると、そこに甘味さを感じてしまわないでもない点が、また厄介なところです。
はやし 2007/06/23(Sat)08:00:00 編集
ぼくは「天才」というのはよく分からないんですが、どえらいことを成し遂げた人というのは、通常では考えられないような持続力と深度で、何かあることで一生を棒に振った、という面は少なからずあるような気がします。その意味で、そうした人たちもやはり「破滅型」なわけです。
はやし 2007/06/23(Sat)08:03:00 編集
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