忍者ブログ

 わたしが、この『うわさのベーコン』について、小説ではなく「小説」と「」をつけて説明したのは、それが、実際のところ、小説とは呼べないものだからです。では、いったい、この本をどんなジャンルに押しつければいいのか。それは、わたしにもわかりません。いや、たぶん誰にもわからないでしょう。

(……)

 確かに、わたしは、よく、マンガとか、理論物理学の教科書とか、特殊な語学書とか、ほとんど文字の書かれていない裸ばかりの写真集について書きながら、また当然のことながら文学なのだが、というような書き方をしてきたので、また例によって、なんでも文学にしてしまういつもの病気が出たのだ、と思われたかもしれません。

 しかし、わたしは、この「小説」に関しては、注意深く、文学と呼ぶことは避けていました。というか、はっきりと、こう書きさえしたのです。

 それは、文学ではありません、と。

高橋源一郎『ニッポンの小説』pp.153-155



源ちゃんにこういうふうに言われちゃあ、読まないわけにはいくまい。じっさいに『うわさのベーコン』は、なんだかよく分からないしろものだ。たしかに、ふつうに「小説」や「文学」と呼びならわされているものとは、なにかがちがう。しかし、まったくそういったものとかけ離れているか、というと、そういうわけでもない。これは、「小説」や「文学」といった書きものにかぎりなく漸近しながら、最終的にはそこに到達することは決してない、そんな「なにか」だ。

『うわさのベーコン』はたんじゅんに、「きわめて単純な間違い、勘違い、文法的な間違い、それから、どういう理由で間違えてしまったのか判然としない間違い、それから、とにかく、間違いとしか言いようのない言葉の使用」といった、数多くの「間違い」にまみれているから、「小説」や「文学」でないのではない。源ちゃんは『うわさのベーコン』に、ある種の「志の低さ」を読みこみ、それがゆえに「小説」や「文学」といったものが織りなす「序列」に乗っからない、ということを言っているが、なるほど、たしかにこの『うわさのベーコン」を「自分のことを価値ある人間と見てもらうため」に差し出す人間がいるとすれば、それは端的にバカというものだろう。

だが、はたして、そういう「序列」や「自らを価値ある人間と見られること」を、「小説」や「文学」は気にしているのだろうか? どうもそうとも思えない気がする。それに、そのような「序列」や「自らを価値ある人間と見られること」なる標準を度外視しても、この『うわさのベーコン』はまさに「破格」に思えるのだ。要するに、やや抽象的な言い方になってしまうが、『うわさのベーコン』に聴かれるグルーヴ感は、世の「小説」や「文学」と言われるそれらとは、まったくちがう。

そして、ふと、このグルーヴ感はどこかで聴いたことがあるものだ、と思いいたり、ああそうだ、この手のものに聴かれるそれだ、と合点がいった次第。みなさまがたにおかれましても、Eerie Materialsのテープでも流しながら読まれるといいのではないでしょうか。

PR
この記事にコメントする
お名前
メールアドレス
URL
コメント
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
02 2017/03 04
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 15 16 17 18
19 20 22 23 24
27 28 29 30 31
最新トラックバック
メール
ブログ作成者(はやし)に直接訴えたいことがある、という場合は、下のアドレスにメールをどうぞ。

thayashi#ucalgary.ca
(#を@に置換してください)

ブログ内検索
Google
WWW を検索 このブログ内を検索

はやしのブログ内で紹介された
 書籍の検索はこちら
 音盤の検索はこちら
ランダムおすすめ
(忍者ブログに引越してから、うまくうごかなくなってしまいました。いつか、直します)
Randombook
このブログで紹介したことのある本をランダム表示。
Randomusic
このブログで紹介したことのある音をランダム表示。
自分がらみのリンク
はやしのブログ書籍一覧
このブログで言及された書籍の一覧。
はやしのブログ音盤一覧
このブログで言及された音盤の一覧。
最近のおすすめ本
最近のおすすめ音

Copyright © [ はやしのブログ ]
No right reserved except those which belong to someone else.
Special Template : 忍者ブログ de テンプレート and ブログアクセスアップ
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]