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「古典」と称されるような書物は、まだ書籍の流通がそれほど発達していなかったころに書かれたものが多く、いきおい、そうした古典においては現在のように本文や注に参考文献が飛びかうということが少ない(ぼくの大ざっぱな感覚では、18世紀までは本文や注に明白なかたちで参考文献が差しはさまれることはあまりなく、19世紀あたりからそういうことがだんだん増えてくるように思える)。だから、書かれた時代の近しい、参考文献が山もりの書物を読むさいにありがちな「あ、この文献おもしろそう。どういうものかちょっと調べてみよう」とか「お、この文献はたしか持っていたな。そちらをちょっと読んでみよう」という「寄り道」なしに(そして、この「寄り道」こそが、書かれた時代の近しい、参考文献が山もりの書物を読むことの愉しみだったりする)、その本そのものに沈みこむことができる(もちろん、書物間の往還ないしは交感はその本がいつ書かれたかにかかわらず生じるものだし、それに、書かれた時代の近しい、参考文献が山もりの書物だって、それをきちんと理解あるいは味読しようとすればそこに「沈みこむ」必要があるわけで、だから、書かれた時代によって読み方が「拡散/没入」に二分されるというのは雑すぎる物言いではあるのだけど、ごく表面的な形式が素朴にしからしむる読書形態の傾向がここでは言われているということで諒とされたい)。そして、そういう「古典への沈みこみ」には、ほかにやらねばならないことがたくさんあるときに誘われることが多く、すると、「ああ、こんなことをしている場合ではないのに」という背徳の甘美さとあいまって、とてもよい。

そんなわけでぼくはいま、「ねばならぬ」ことのいっさいがっさいを放擲して、『純粋理性批判』を読んでいる。
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