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今日おれの指導教官をしてくれている先生とオフィスでだらだらとくっちゃべっているとき、ふとクリプキの話になった。
で、まあ、通り一遍のことながら、「それにしても18歳だか19歳だかのときに様相論理の完全性を証明しちゃうなんて、やっぱすごいよねえ」とおれが言うと、「うん、哲学とか論理学に関しては、彼はほんとうにすごい。でも、それ以外のことは彼、からっきしだめなんだよ」と先生が言った。おれが、「え?」てな感じでいると、先生は「一人じゃ服も着られないし、さらに言えば、一人で食事ができるかどうかもあやしいと思うな」とつづけた。なんでも、先生が大学院生のころ、先生の行っていた大学にクリプキが講演に来て、なんと彼の世話係を務めた、と言う。そして、そのときにも思わず絶句してしまうことが多々あったらしい。
たとえば、先生がクリプキを空港に迎えに行ったときのこと。待ち合わせロビーでクリプキが出てくるのを待っていると、どこからともなく「おれのスリッパが! おれのスリッパが!」という悲痛な叫び声が聞こえてきたそうな。言うまでもなくその声の主はクリプキで、クリプキ愛用のスリッパを飛行機のなかに忘れてきてしまったらしく、取りに行かせろとわーわーごねていたらしい。けっきょく、そのスリッパは係員によって無事保護(?)されたらしいのだけど、そのスリッパの汚さ臭さたるや、想像を絶するものであったという。
そんな登場のしかたであるから、とうぜん帰るときも大変だったようで、まず、クリプキは帰りの身支度がまったくできない。その「身支度」というのがたとえば荷物のパッキングとかならまだ話は分かる。でも、クリプキの「身支度のできなさ」はそんなちょろいもんではなく、「身支度」という言葉から連想される一切合切ができないのだ。だから、先生といっしょにクリプキの世話係をしていた人は、彼に靴まで履かせてあげなければならなかった。さらに、クリプキが靴を履かせてもらっているときに、おれの指導教官の先生が「帰り方」「ギャラの請求の仕方」などをじゅんじゅんと(先生曰く「少なくとも5回は繰返して」)説明したらしいのだけど、そういうときには「子ども扱いしないでくれ! そんなことぐらいできる!」とご立腹だったらしい。自分では靴も履けないのに。
あと、これは先生が伝聞した話らしいのだけど、クリプキがアトランタにある大学に講演に行ったときのこと。おれはよく知らないのだけど、アトランタには環状道路が走っていて、クリプキも帰るときにはとうぜんその環状道路を通って当時所属していたプリンストンのあるニュージャージーまで帰らなければならなかった(と、それを聞いて、「車の運転はできるの?」とおれは思ったのだが、その点について問い質すのを忘れてしまった)。さて、大学最寄りのガスステーションでガソリンも入れて準備万端、クリプキは一路ニュージャージーを目指した。えんえん10時間以上車を走らせ、そろそろニュージャージーに近づいてきたかな、というころ、どうも残りのガソリンが心もとなくなってきた(いま調べたところ、アトランタからニュージャージーは車で14時間ほどかかる)。クリプキはガスステーションに寄り、ガソリンを入れようとしたところ、そのガスステーションのおやじがクリプキの顔を見るなり、「あんた今朝もガソリン入れてたよね」と一言。そう、クリプキはアトランタの環状道路をえんえん飽きることなく一日中走っていたのだ。
と、このような逸話をひとしきり聞いて、思わず「それって『ちょっと変わってる』っていうレヴェルじゃなくて、完全に……」とおれが言うと、先生は含み笑いをしつつ、"Crazy"と言葉をついだのだった。
こういう天才の人って、なんか、どっか凄く欠けているがゆえに天才って人も多いですね。
聞き伝えで、ソースが明らかでないのですが、昔ガウスが「整理整頓が出来る奴は数学が出来るし、出来ない奴は数学が出来ない」と言ったとか。これは、嘘か何かの間違いだと思っています。
その話は寡聞にして知りませんでしたが(というか、クリプキがここまですっ飛ばした人だとは、先生から話を聞くまで知らなかった)、そういうことがあったとしてもぜんぜんおかしくないですね。ただ、どっか知らないところに行って、そしてそこになぜだか強烈な既視感を抱いてしまったとしたら、ぼくも同様の反応をしてしまうかもしれません。
ボタンがひとりで留められないのはともかく、押入れのなかで寝ているってのはぼくにはそんなに問題に思えません。まあ、同じ穴の狢、ってやつかもしれませんが。
で、「天才と変人」の関係について、ですが、実際問題、「天才でかつ変人」という人と「変人で天才ではない」という人を比べたとき、たぶん後者の人が多からんと思われるので、天才属性と変人属性って、けっきょくあまり関係ないんじゃないか、って思ったりします。というか、天才であろうとなかろうと、人ってのはみんなそれぞれ固有の意味で「変」だったりしますし。
ガウスのその言は字義通りに取ると、何だか実情にそぐってない感じもしますが、ただ、どうでしょう、見た目上の「きれいさ」ということではなく、本質的な意味で「整理されている」という点から見れば、まさにそうなんじゃないでしょうか? つまり、本人のなかでほんとうに「整理整頓」が遂行されていれば、見た目上がいかにケイオティックであったにせよ、それは(あくまで当人にとっては)整理整頓されていると言えるわけで(だから、見た目上の整理整頓を心がけないともろもろの作業が立ち行かなくなる人は、じつは本質的には整理整頓が得意な人ではないわけです)。
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