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先日届いたPhilosophy of Mathematics (J.R. Brown, Routledge)の「連続体仮説の反駁の仕方」と題された章を読んだのだけど、そこで開陳されていた、「確率論的反駁」とでも呼びうる方途がなかなかに新鮮だったので、以前から言っているForcing for Philosophersへの助走がてら、そのアウトラインを、これから数回にわたって紹介する。

そのさい、上のリンク先エントリでも記したとおり、ここでも「(広義の意味での、つまり集合論もその一分野として含むところの)ロジックの知識は仮定しない」という方針を貫き、「そも連続体仮説とは何ぞや?」ということも、説明する。そのために、まず今回は「無限」について見よう。

「無限」とは、ここでも普通一般の用法と同じく、素朴には「限りがないこと」を意味する。たとえば、われわれにとっても親しいと思われる「自然数」、これは、どんなに大きな自然数を考えても、かならずそれよりも大きな自然数が「限りなく」存在しうるので、無限である。しかしながら、自然数は自然数として、あるまとまりをもった「総体」とも考えうる。そこで、この「まとまり」としての自然数の総体を \(\omega\) と表し、その「大きさ」(業界用語では「濃度」と呼ばれる)を \(\aleph_0\) と表す。また、濃度が \(\aleph_0\) 、もしくはそれ以下のものを「可算」と言う。これは、直感的には、自然数による番号づけ、あるいは、自然数によって数え上げることができる、ということである。

ところで、奇数(あるいは偶数)は自然数の真部分集合、つまり、それらは自然数の「じゅんすいな一部」である。ゆえに、直感的には、奇数(あるいは偶数)よりも自然数のほうが「大きい」(高濃度を持つ)ように思われる。しかしながら、奇数(あるいは偶数)は2n+1(あるいは2n)と表されうることから分かるとおり、奇数(そして偶数)の濃度も自然数と同じ、つまり \(\aleph_0\) である。このことから、「奇数全体」+「偶数全体」=自然数なので、 \(\aleph_0 + \aleph_0 = \aleph_0\) が分かる(同様に、 \(\aleph_0 \times \aleph_0 = \aleph_0\) も示せるが、ここではその詳細は省く)。

さて、それでは、自然数と、そして実数の「大きさ」を比べたとき、それらの関係はどうなっているであろうか? まず、実数が自然数を含む、つまり、実数は少なくとも自然数と同程度の「大きさ」であることは、容易に分かる。しかし、そこから先、実数は自然数に比べてよぶんに要素を持っているからといって、「実数の濃度のほうが大きい」と言えないことは、上で見た「奇数濃度+偶数濃度=自然数濃度」ということから伺い知れる。ここで、かの有名な「カントールの対角線論法」が登場する。

簡単のため、実数のうち[0,1]の範囲(数直線の、0と1のあいだの部分で、0も1も含むものをイメージされたし)で考える。すると、もし実数が自然数と同じ濃度を持つなら、[0,1]の範囲に含まれる各実数は自然数によって番号づけが可能なはずである。いま、つぎのような実数のならびがあったとする。

1: 0.88491625 . . .
2: 0.12548179 . . .
3: 0.39271254 . . .
4: 0.56469848 . . .
(以下、「無限」につづく)

もし[0,1]の範囲の各実数が自然数で番号づけ可能であれば、このような列のどこかに[0,1]の範囲の実数がすべて現れているはずである。ここで、[0,1]の範囲のある実数rをつぎのように構成する。

上のような実数のならびの1番目のものの小数点以下1つ目に1を足したもの(そこに現れる数が9の場合、それに1を足した結果は0とする)をその小数点以下1つ目とし、2番目のものの小数点以下2つ目に1を足したものをその小数以下1つ目とし……n番目のものの小数点以下nつ目に1を足したものをその小数以下n+1つ目とする。

上の実数列の例で言えば、こうしたrをとりあえず小数点以下4つ目まで考えると、r=0.9337となる。このように構成されたrは、上の実数列の1番目とはその小数点以下1桁目がちがうし、2番目とはその小数点以下2桁目がちがうし、3番目とはその小数点以下3桁目がちがうし、4番目とはその小数点以下4桁目がちがうし……というふうに、上の実数列のいずれの場所にも現れることはない。つまり、実数の「ほんの一部」である[0,1]の範囲ですら自然数で番号づけができないのだから、実数全体も自然数で番号づけできるわけはなく、ゆえに、その濃度は \(\aleph_0\) ではない。それでは、実数の濃度は何なのであろうか? これこそが「連続体仮説」と呼ばれる問題で問われたことであった。

次回ではじっさいに「連続体仮説」とはいかなる問いなのかを見る。

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