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前回はゲーデルの「神の存在証明」のうち、証明の前提となる2つの公理(「ある性質、もしくはその性質の補のどちらか1つのみが、実在的である」「ある実在的性質に必然的に伴う性質もまた実在的である」)と、それら2つの公理から導かれる命題(「ある性質P が実在的であれば、その性質P を持つ何かが存在しうる」)までを見たのだった。この稿では、最初に訳語についてのかんたんな注釈をしたのち、ゲーデルの証明を構成する最初の山である「神が存在することはありうる」という定理までを見てみよう。

まず、誰しも少なからず疑義を感じているであろう、「実在(的)」という訳語について、かんたんに注釈を述べておく。さて、これまで再三うるさいぐらいに言ってきていることだが、ゲーデルの存在証明は、ライプニッツに大きな影響を受けている。その影響の程度は、証明全体の構成のみならず、そこで用いられている概念自体にまで及び、そして、ここでは「実在的」と訳されているpositive という語についてもその例外ではない。とりあえず、つぎのライプニッツの文章を見てもらおう。

Positive で絶対的であるすべてのたんじゅんな性質を、わたしは「完全perfectio 」と呼ぶ。つまり、そうした性質があらわしうるものは何であれ、何らの限定もなしに表しうる、そんな性質のことである

(1676年に書かれたライプニッツのノート。ゲルハルト版哲学著作集第7巻より)

つまり、端的に言えば、ライプニッツが「完全perfection 」と呼んだものをゲーデルは「実在positive 」として捉え返した、と言えるわけだ。ゆえに、このpositive という語を訳すとき、よほど「完全」と訳してしまおうと思ったのだが、そこはゲーデルじしんの語選択を尊重して、とりあえず「実在」と訳した。ただ、この「実在」という言葉を読むときは、その裏に「肯定」「完全」というセリーを思いうかべていただきたい。

ちなみに、ライプニッツ『単子論』41節には「完全なものとは、ポジティヴなリアリティの大きさに他ならない la perfection n'étant autre chose que la grandeur de la réalité positive」とあり、また、スピノザ『エチカ』第2部定義6にも「『実在』と『完全』とを、わたしは同じものと理解する Per realitatem et perfectionem idem intelligo」とある。

さて、ところで、先に引用したライプニッツのノートのつづきに、つぎのようなくだりがある。

……すべての完全なるものは互いに両立可能であり、つまり、同じひとつの基体のなかに併存しうる。

(op.cit.)

そして、つぎにゲーデルが述べる公理は、本質的に上と同じ主張をするものである。

公理3
実在的性質のどんな集まりであっても、それらが合わさって構成される性質はまた、実在的である。

つまり、回りくどい言い方ではあるが、いくつかの(じっさいには無限の)実在的性質が寄り集まってもおかしなことにはならず、それらが合わさってまた実在的性質を構成しうる、ということが言われている。

前回述べたように、この公理はかなり問題含みであるのだが、この公理に限らず、ゲーデルの証明にある問題点については、つづく第5稿(予定)で点検することとする。

そして、この定理を述べたあと、つぎのような「神の定義」がなされる。

神とは、すべての実在的性質をもつ存在である。

つまり、伝統的な存在証明におけるのと同様、「すべてを含みこむもの」というイメージでもって「神」が表象される。そのうえで、つぎの命題が述べられる。

命題2
神が存在することは可能である。

証明
「神」とは定義により、すべての実在的性質をもつ存在である。ところで、公理3により、そうした「すべての実在的性質」はまた、実在的性質を構成する。ゆえに、命題1により、そうした実在的性質をもつものが存在しうる。

これで、証明全体の前半部分である「神の存在可能性」が示された。つぎからは証明の後半部分、つまり「神の存在が可能だとすれば、それは必然的に存在する」の証明に取りかかろう。

つづく
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