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前回ではゲーデルの「神の存在証明」の全体構成のうち前半部分、つまり「神の存在は可能である」という部分まで証明した。この稿では証明の後半部分、つまり「神が存在することがありうれば、それは必然的に存在する」の証明のうち、その前半部分を追っかけよう。
まず、型通り新しい公理を導入することから始める。
公理4
すべての実在的性質は必然的に実在的であり、すべての非在的性質も必然的に非在的である。
これは、かなりびみょうな公理だ。この公理は、ある性質が実在的であるとすれば、その性質はどんな状況下でも実在的である、ということを述べている。つまり、様相論理の言葉づかいで言えば、∀X (P (X ) → □P (X ))ということである(ここでX は性質、P (X )は「X は実在的性質である」という述語とする。X はそれじしん、X (a )というかたちで、「a は性質X を持つ」という述語となることに注意)。これは、はっきり言えば、証明を要する「命題」である、と思われるが、そこで立ち止まってもしようがない。とりあえず鵜呑みにしておこう。
シアトル現地時間2007年10月2日22時追記
ここのコメント欄におけるにゃんこさんの指摘を受けて、上記説明のうち、一部の語句を追加修正しました。
つぎに、つぎの定義を導入する。
定義2
性質G がつぎの条件を満たすとき、それを対象g の本質と呼ぶ。
1. 対象g は性質G を持つ。
2. 性質G には対象g のすべての性質が伴う。
上の定義は、いっけん当たり前と言うか、冗長な感じがするが、定義の前半部分、つまり1は自明にしても、定義の後半部分、つまり2では、対象g とは関係なく性質G だけを見ても、そこには対象g が持つすべての性質が随伴している、ということが述べてあり、「本質」についての定義のキモもここにある。
さて、上の公理と定義が導入されたので、つぎの命題の証明に取りかかろう。
命題3
g がもし神であれば、g の本質は「神であること」である。
この命題も、「本質」の定義と同様、当たり前のことを述べているにすぎぬもののように思えるが、ここで言われているのは、もし何かが「神」であるのなら、それは「神である」という性質以外は持たない、ということである。証明を見てみよう。
まず、「神であること」とはどういうことであるのかを明確化する。前回の定義で言われたとおり、「神である」とは「すべての実在的性質をもちあわせている」ということであった。ゆえに、ここでの証明方針は、g が「すべての実在的性質をもちあわせている」という性質(ここではそういう性質をG と呼ぼう)を持ち、かつ、その性質G はg の性質すべてを伴っている、ということを示すものになる。
さて、何でもいいが適当に取ってきたP がg の性質であったとする。そのとき、もしP が実在的な性質でなかったら、公理1により、その補性質が実在的性質、となる。その場合(というのは、P が実在的性質でなかった場合、ということだが)、g は「神である」、つまり「すべての実在的性質を持つ」という前提があるので、P の補性質をg は持つことになる。しかしこの場合、g はある性質とその補性質を同時に持つことになり、このようなことはありえない。ゆえに、何であれP がg の性質であるのなら、それは実在的性質、ということになる。
つぎにG について考えると、それはすべての実在的性質の併合としてあるのだから、とうぜんG は上で言われた性質P を伴う。そして、その性質P は任意であったのだから、G はg の性質をすべて伴うことになり、ゆえに、定義2の要件2は満たされる。
定義2の要件1は、命題の前件、つまり「g は神であるとする」ということから自動的に満たされているので、定義2の要件をすべて満たしていることになり、ゆえに、g の本質は「神であること」(性質G )が示され、命題は証明された。
この稿では、証明が必要で思えることが「公理」として提出され、ぎゃくに証明が要らなさそうなことが「命題」として提出された。いかにも証明が必要そうに見えるくだんの「公理」の検討は、つづく「批判論考編」(このシリーズの第6回目を予定)に持ちこすこととし、次回では、ゲーデルの「神の存在証明」を完成させる。
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