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先日ベケット著作集を入手したのに加え、古本屋でイヨネスコの『』(翻訳)まで買ってしまい、にわかにanti-théâtreづいているのだが、あらためてそれら諸作を読んでみると、異様に「リアル」であることに驚かされる。

あまり劇作品というものにふれたことがないので大きなことは言えないが、劇作品というのはdramaというだけあって、みょうに「劇的」と言うか、「んなわけあるかい」というご都合主義的なところが鼻についたりして、「ちょっと読むにたえないな」と思うことがままあるのに対し、ベケットやらイヨネスコやらの登場人物は、まさに自分がそこいらで友だちとくっちゃべっているかのような錯覚を起こさせる。

もちろん、虚心坦懐に状況やらは話されていることやらを勘案すれば、そこにはある種の「作為」、あるいは「巧まれた荒唐無稽さ」がありはするのだが、上で言ったような「ザ・ドラマ」とでも言うべき劇作品に比べれば、よほどわれわれがふだん会話をしている、その「感じ」に近い。たとえば、『ゴドー』のつぎのような会話。

エストラゴン (木を見ながら)あれ何かな?
ヴラジミール 木だよ。
エストラゴン いや、それは分かってるんだけど、何の木かな?
ヴラジミール 知るかよ。ヤナギかなんかじゃないの。
(エストラゴンがヴラジミールを木のところまで連れて行く。ふたりは木のまえで身じろぎもせず立っている。沈黙)
エストラゴン 首でも吊ってみようか?
ヴラジミール 何でよ?
エストラゴン ロープ持ってないの?
ヴラジミール 持ってないよ。
エストラゴン じゃあ無理か。
(沈黙)

引用しているときりがないのでここいらで止めておくが、われわれがふだんしている会話というのも、ここでエストラゴンとヴラジミールがしているそれと大同小異な、飛躍があったり、まったく理路がなかったりする、そんなものである。つまり、われわれの会話は、思うほど「条理」にかなったものではないのだ。だから、このようないつ果てるとも知れぬだらだらとした「不条理」な会話が、すっとこちらに入ってくる。

そのような「不条理」を「条理」に引きよせて、つまり、われわれはふだん理路整然とし条理にかなった会話をしているかのような顔をして解釈するのは(たとえば「ゴドー Godot」とは「神 God」のことだろう、というような)、「まちがっている」とまでは言わないが、「何か、ちがう」と思う。「不条理」を「不条理」として受けとり、そして、そこに「自分」のdoubleを見いだし入れ子状の「不条理」に眩惑される、そういうふうに読むのが、おれにとってはおもしろい。

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