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今回は、英語の本はあっち(アメリカ)に行きゃいくらでも図書館でただで読めるし、そこになければ古本でごく安価に買える、という判断のもと、英語の本は買い控え、仏語、そして日本語の本を買った。いきおい、内容的なラインナップも平生とは少しちがったものになった、かな。
- Ferdinand de Saussure, Écrits de linguistique générale , Gallimard
1996年に、突如としてジュネーヴで発見されたソシュールの幻の講義草稿。最近はコンスタンタンの講義ノートが流行りっぽいが、これまでは通例、贋作すれすれの増補がなされていたバイイとセシュエによるコンパイル版か、研究者向けには、1955年に発見されたソシュールの講義草稿をまとめたゴデル版、および、その草稿を各種講義ノートと付合わせたエングラー版を参照したものだった。しかしながら、コンスタンタンのコンプリートな講義ノートをべつにすると、ゴデル版もエングラー版も、バイイとセシュエの(問題なしとはとても言い切れない)再構成講義に沿った編集をしており、その点について従来から研究者の不満の声は少なくなかった。そこへきて、1996年の椿事があり、1955年に発見済みであった草稿と合わせて、「ソシュール一般言語学講義」のほぼ全容がソシュール自身の言葉で知ることができるようになったのだ。これを「事件」と呼ばずして、何を「事件」と呼ぶか。1996年当時まだ学部生だったおれはこのニュースにふれて、無意味に心臓の鼓動が速まったのを覚えている。 - Roland Barthes, La préparation de roman I et II , Seuil
言わずと知れたバルトの、コレージュ・ド・フランスにおける最終講義。コレージュ・ド・フランスに提出された講義要項によれば(Barthes, OC t.V , p.733)、「小説」が生み出される条件を、「小説」というものの分析によってでもなく、各々の作家がどういうふうに「小説」を準備するかという技術論でもなく、「俳句」という意外なものから説き起こしていく。それに際して、「小説」が「作品œuvre」と言いかえられ、さらには「生vie」とも重ねあわせていくところがミソ。翻訳は存在するが、高い(2巻本にして、1巻あたり5,000円とかにしたほうが、よほど買いやすく、売上も伸びたのではないか?)。 - 原宏之, 〈新生〉の風景, 冬弓舎
上記『小説の準備』がまだ刊行されていないときに出た、じっさいにバルトの当該講義を聞いた著者による小著。ときおり、今となってはただ読むのが辛いとしか思えない韜晦さが鼻につくが、全体として前掲バルト講義のいい手引きになっているように思う。劈頭に見られるつぎのような文章が印象的。「新生とは、その名のとおり第二の人生のことであるが、それは退職したあとにもてあます時間をいかに生き、どこに喜びを見出して、何を健康の糧とするのか、そのような余命のことではない。むしろ能動的な新生であり、人生を否定したあとで絶対的な肯定にむけて『然り』と叫ぶ想いこそが『新生』として扱われるだろう。二重の肯定、無条件の生の肯定である」。 - マルティネス&シェッフェル, 物語の森へ, 法政大学出版局
- 土田知則他・編, 現代文学理論, 新曜社
両者とも、とある特別講義において「推奨参考文献」として挙げられていたもの。どちらも文学理論のあれこれを手堅くまとめてくれているが、後者のほうがチャート本風味がつよく、前者のほうが広がりのある本となっている。ともに文献紹介が充実しており、これを眺めるだけでもゆうに数時間はたのしめそう。 - マリー=ロール・ライアン, 可能世界・人工知能・物語理論, 水声社
以前から気になっていたものを、身辺でナラトロジーがちょっと云々されていることもあって、ちょうどいい機会だからと購入。訳者も言うように、「人工知能」の部分はじゃっかん古びているところがあるらしいが、全体として、せまく「文学」と謂うには限られない、広汎な論が展開されている。ただ、ちょっと見たかぎりでも、可能世界の使い方に疑問を覚えないでもない。時間と気力があれば、この点について何か書きたいものだ。 - 四方田犬彦, 先生とわたし, 新潮社
「学魔」高山宏とも縁浅からぬ由良君美の伝記。これだけで、分かる人は分かるし、分かったあかつきには手が伸びないはずがないので、多言は弄しない。 - 田中一之・編, ゲーデルと20世紀の論理学 4, 東京大学出版会
「ゲーデルと20世紀の論理学」全4巻、ついに完結。最初、紀伊国屋新宿南店に行くも、なし。つぎに、ジュンク堂でもダメ。最後に、なかばあきらめかけて訪れた紀伊国屋本店では、平積み。やはり、人間あきらめないことが大切です。ともあれ、一番たのしみにしていた巻なので、耽読しようと思います。
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