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公開当時から気になっていたダニエル・ジョンストンの伝記映画『悪魔とダニエル・ジョンストン』をやっと観た。
内容に関しては、とくに語ることはない。それは、「語るほどの内容がない」ということではまったくなく、「まあ、いいから観なよ」と言うしかない、ということである(ただ、そもそもダニエル・ジョンストンを知らない人が、「カート・コバーンほか多くのアーティストがリスペクトする狂気の天才ミュージシャン」などという薄っぺらな惹句だけを予備知識にこの映画を観ることは、できるだけ避けてほしい、と思う)。だから以下には、この映画が引き金となって思いおこされたことを、まとまりなく書き記す。
おれがダニエル・ジョンストンの音楽にはじめてふれたのは、たしか中学生のときだった。ちょうどそのころ、シミー系の音盤を買い漁っていた流れで、おりよくHomesteadからCDでリイシューされたYip/Jump Musicを聴いたのだと思う。そのころはまだ、上で引いた惹句のような「ダニエル・ジョンストン=狂気の天才ミュージシャン」というイメージはそれほど流布しておらず(おれが知ることのできた範囲では「体が悪くてあまりツアーなどはできない」という程度の情報しか得られなかったように覚えている。じっさい悪かったのは、「体」ではなく精神だったわけだが)、たとえば前述のシミー系や、そしてハッピーフラワーズなどの「一般的な尺度からすれば、成り立ってんだかどうだか定かならぬ音楽」という括りで、少なくともおれは受容していた(そもそも、ハッピーフラワーズをリリースしているHomesteadからのリリースであったし)。そして、そういう「一般的な尺度からすれば、成り立ってんだかどうだか定かならぬ音楽」を聴きながら、そのころ薄ぼんやりと思い、そして今日この映画を観ながらあらためて思ったのは、「音楽における自由」ということであった。
音楽というものは、思うほど自由なものではない。本人はきわめて「自由」に「思うまま」演奏しているつもりでも、音楽の「大きな枠組み」のようなものに囚われてしまっている。それは、たとえば十二平均率という音律かもしれないし、4/4というリズム構造かもしれないが、とにかく、「自由に思うまま」というより、それら「音楽の大きな枠組み」に従うことのほうに腐心してしまう、ということだ。ダニエル・ジョンストンは、「自分が歌いたいうた」と、そのような「大きな枠組み」が衝突したとき、迷わずに「自分のうた」を選びとる。もちろん、彼とて「音楽の大きな枠組み」から完全に自由であるわけではなく、むしろ表層的には、彼のつくる音楽はごくシンプルで、伝統的な印象すら残す。しかし、そうでありながら、彼は同時に「踏み外し」をおそれない、というか、ごく自然にそうする。そうした挙措が、ときに清々しい、そしてときにのっぴきならない痛切な聴取感を聴き手に与える。つまり、かんたんに言えば、感動させられる。
こうした「音楽における大きな枠組み」の「踏み外し」は、それが意図的で巧まれたものであればあるほど、こちらの鼻を白ませもし、ひるがえって、そうした「踏み外し」にあまりに意識的な聴取を聴き手であるこちらがしてしまうと、ほんとうはまっとうな意味で「自由」であるはずの音楽が、小むずかしげに語られる記号としての「フリーミュージック」に転落してしまう(そういう小むずかしさをすり抜けた、文字通り「自由な音楽」としてのフリーミュージックについては、以前こういうものを書いた)。「自由な音楽」というのは、聴くのも演奏するのも、けっこうむずかしい。
そういう、聴く側と演奏する側の「賢しらさ」なぞどこ吹く風に、ダニエル・ジョンストンの音楽はごくシンプルに、プレーンに鳴っている。それが、彼の「病んだ」とされている「精神」とどういう関わりがあるのか、そんなこともどうでもいいことだ。そうした「自由な音楽」を聴くこちらも、「こりゃいいね」とか「いや、あんま好きじゃないな」と、自由に聴けばよい。
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