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ビーチボーイズの言わずと知れた名曲"Good Vibrations"は、楽曲それ自体のよさもさることながら、歌いだしの歌詞がまずいい。そして、この曲にかぎらず、ビーチボーイズのうたう歌というのは、このような「間接性」、あるいは寸止め感覚、もっと言えば「仮定法のもたらす茫とした寂寞感」のようなものが、ふかく刻印されている。そんな気がする。
上述の"Good Vibrations"で言えば、この曲の歌詞はつまるところ、ぐっと端的に「彼女が好きだ」ということをうたっている、のかもしれない。しかし、じっさいには、この曲には「彼女が好きだ」という直截な表現は、ただのいちども出てこない。そこにあらわれる"love"の対象は、たとえば「彼女のカラフルな服」であったり、「彼女の髪にふりそそぐ陽光」であったり、あるいはその「言葉」であったり「香り」であったりする。
もちろん、こうした間接的な指示で、そうした指示が「まとわりつくもの」を際立たせるというのは、歌詞にかぎらずよくあるレトリックではある。ただ、これはおれの思いこみ、あるいは(やや頓狂な)思い入れがそうさせるのかもしれないが、そうした間接的な指示が、「彼女」への到達不可能性のようなものを想起させる。手が届きそうなのだけど、寸でのところで届かない。そうしたものとして「彼女」は表象される。
また、そうした指示の間接性ではなく、たとえば、これまた言うまでもない世紀の傑作Pet Sounds の劈頭をかざる"Wouldn't It Be Nice"の、「すてきだ!」と叫ぶのではなく、「いまそうではない現実」を目のはしにちらつかせながら、「そうだったら、すてきだろうね」とつぶやく、そんな仮定法的な「しあわせ」感覚。
これも、もちろん、歌詞全体を見れば分かるとおり、「いま」の時点でもそれなりの"nice"さはじゅうぶんに漂わせており、ゆえに、ここで「そうだったら、すてきだろうね」と言われる「そうだったら」という仮定が実現される見込みは、それほど低いとは言えない。だが、ここでもおれの思いこみ、そして頓狂な思い入れが、そうした「端的なしあわせ」に亀裂を走らせる。「彼女が好きだ」ではなく、「彼女にまとわりつくもの」を「好きだ」と言うことが、そのような「彼女」の「手の届かなさ」を想起させるように、「そうだったら」という仮定法が、「そうではない未来」を想起させる。
このように、「端的」であったり「絶対確実」であったり「保証されて」いたりすることから身をかわすこと、それが、「ドリーミー」と言うのではぜんぜん足りない、ぼんやりとしたうすもやの向うに尋常ならざる光がかがやいているような、そんなサウンドと相俟って、ビーチボーイズのあの甘美さを生み出している。そう思う。
ちなみに、"Good Vibrations"の「ぼくは、ぼくは彼女のカラフルな服が好きだ」という部分は、ブライアン・ウィルソン自らによるものではなく、マイク・ラヴの手になるものだが、ブライアン・ウィルソンが2004年にSmile をついに「完成」させたとき、そこに収められたヴァージョンにも、この「彼女のカラフルな服」の部分は温存されたのだった。
Erano i capei d'oro a al'aura sparsi,
che'n mille dolci noding gli avolgea,
el'vago lume oltra misura ardea
di quei begli acchi,ch'or ne son si scarsi;
とLauraという名前を出すことなくa l'auraと掛詞で置き換えられていたり、他の彼女を表す象徴的な言葉の使用によってはやしさんが、言うような「手の届かなさ」を想起させる。でもこのラウラは亡くなってしまっていたのでほんとに手が届かないのだけど。
でもLOVEに限らず、ひとって他者のまわりにまとわるイメージを繋ぎ合わせてその人の姿を頭に浮かび上がらせている気がする。
ビーチボーイズのGood Vibrationは、"Im pickin up good vibrations" と聴いただけで同じ世界を共有できてワクワクするですよ。
可能態が現実態となったそのものは顧慮するに値しないから…
っていうかみんな飽き飽きしてるだろから。
アーキタイプからプロトタイプへ!
ここで生きて暮らそうぜ!
ええやろ。
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