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記号というのは大ざっぱに言って、2つの方向の役割を果たす。
ひとつには、何かあるものを取りまとめ、それを記号で表すという「統合的」な役割、そしてもうひとつには、何かあるものを分解し、その構成要素をひとつひとつ記号で表すという「分析的」な役割、そうしたものを記号は持つ。そして、『プリンキピア・マテマティカ』第1版序論において、おもに後者の、つまりは分析的記号の用法について、一般的な注意がなされる。
それが統合的であれ分析的であれ、「記号」というものはいっぱんに、どこか人をしてそれを敬遠せしめるところがあるようだ。たとえば、統合的ということで言えば、通常の「数学」と呼ばれる営みで用いられる記号群がまさにそうで、それらはじっさいに便利で重宝するのだが、それらの働き、つまり、そうした記号群が分析的にはどういう意味を持っているか理解していなければ、たんに厄介な印象を与えるインクのしみでしかない。
では、まさにここPM序論でふれられる分析的記号は、上で述べたような統合的記号とはことなり、それほどおそるるにたらぬものなのか? もちろん、あえて「注意」が述べられなければならないことから察しても、ことによったら統合的なそれよりもめんどうなものであることは、想像に難くない。じじつ、ラッセルとホワイトヘッドは、「さいしょはとっつきにくく思えるかもしれないけど、すげえ便利だし、それに馴れちゃえばなんてことないから、ちょっと辛抱ね」ということを、その注意で言っている。
それでは、そうした分析的記号の便利さ、つまりは功徳とはなにか? ラッセルとホワイトヘッドは、そうした功徳を大略5つ挙げているが、大事なポイントとしては、1) 日常言語の枠組みでは、数学を抽象化したはてに見出される「原始概念」を表しえず、あらたにそれらを表す記号を用いる必要がある、2) 日常言語はおおむね「統合的」であり、数学の営みを分析的に表す用途に耐えないので、分析的記号を用いる必要がある、3) そのような分析的記号を用いて数学のプロセスを表すと、そうしたプロセスの見通しがよくなる、ということが挙げられる(これらは、前回で挙げられた、PMにおいて数理論理学が果たすべき役割3点と相即的であることは見やすいであろう)。
たとえば、日常言語で「"1"は数字である」と言っても、たしかにそれは即自的には認められうるし、さらにはじっさい「正しい」言明ではあるのだが、そうした言明が細かくは何を意味し、さらにはどういう概念に拠って立ち、そして、なにゆえ正しいと言えるのか、それらが見えてこない。そうしたことを追求するためには、ここに現れる「1」、「数字」、そして「〜は…である」といったパーツに元の言明を分解し、さらにはそれらパーツをあたうかぎり「原始」的な概念で表しなおす必要がある。
ただ、そうは言っても、かぎりなく分析化がおしすすめられた「原始概念」なるものは、やはり分かりにくいものであり、さらに、そうした原始概念によって構築された複合概念、あるいはそれらを用いてなされる議論は、ふつうの人には「絶望的」と言っていいほど分かりにくいものであろうことは論を俟たない(たとえば、「1」という概念は、素朴な予想とはことなり「原始概念」ではなく、諸々の原始概念に原始プロセスを適用して得られる複合概念で、これは、PM第2版で言えば347ページ目の52.01節で定義される)。
そうした事情を顧慮して、つづく序論第1章では、それら記号の「簡潔さ」(分析性)と「分かりやすさ」(統合性)を橋渡しすることが目指される。次回からは、そのような「橋渡し」を少しずつ見ていこう。
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