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先日(というか、昨日)、とあるところで「マイナスにマイナスをかけるとなぜプラスになるか」ということが話題になった(というか、おれが一方的に話題にした)ので、息抜きがてら「(-1)x(-1)=1」をそうした「マイナスかけるマイナスはプラス」の代表例として、これが成り立つことを証明してみる。
まず、自然数における加法+および乗法*において、交換法則と結合法則が成り立つとする。つまり、
a+b=b+a
(a+b)+c=a+(b+c)
a*b=b*a
(a*b)*c=a*(b*c)
また、つぎのような分配法則も成り立つとする。
a*(b+c)=a*b+a*c
つぎに、加法および乗法に関して、
a+x=a
a*y=a
となるようなxとyを、それぞれ0と1、あるいはゼロ元と単位元と呼ぶ。このようなものは、もし存在するとすれば、それは一意、つまりただ1つしかない(このことの証明は演習問題とする)。
さらに、加法に関して、
a+x=0
となるxをaの逆元と呼び、とくに-aと表す。これにあわせて、移項と呼ばれる操作、つまり、a+b=0などからa=-bを導く操作を、天下り的に導入する(本来なら、これも証明が必要)。
また、代入、つまりa+b=aなどの式の、同じ文字、たとえばaを、ある数、たとえば1などに取り替え1+b=1などを得る操作も許されている、とする。
また、等式「=」間の次の性質も成り立つとする。
反射律: a=a
対称律: a=bであればb=a
推移律: a=bかつb=cであればa=c
さて、上で述べたようにa*1=aが成り立ち、さらにこれに対称律を適用して、
(1) a=a*1
も成り立つ。また、1にゼロ元を適用した結果1+0=1を上式に代入して、
(2) a*1=a*(1+0)
を得る。この式の右辺を、分配法則にしたがって展開すると、
(3) a*(1+0)=a*1+a*0
単位元の性質によりa*1=aなのでけっきょく
(4) a*1+a*0=a+a*0
を得る。ここで、式1から式4までに推移律を適用した結果a=a+a*0に対称律をさらに適用すると、
(5) a+a*0=a
となり、これはa*0がゼロ元に他ならないことを示す。つまり、
(6) a*0=0
つぎに、上式の左辺に1+(-1)=0を代入して
(7) a*0=a*{1+(-1)}
を得る。さらに、この右辺に分配法則を適用すると
(8) a*{1+(-1)}=a*1+a*(-1)
式6から式8に、対称律、推移律を適宜適用すると、
(9) 0=a+a*(-1)
上式右辺のaを左辺に移項して
(10) -a=a*(-1)
ところで、上で述べた逆元の定義により
(11) a+(-a)=0
これに式10を代入して
(12) a+{a*(-1)}=0
ここでaに-1を代入して
(13) -1+{(-1)*(-1)}=0
さらに、最左の-1を移行して、次式を得る。
(14) (-1)*(-1)=1
これが証明すべき式であった。Quod erat demonstrandum.
追記
上の証明の式13から式14を導く部分で、-1...=...を移行させて...=1...という変換を(直感的に認めうるであろうという理由で)やっているが、これは上の移行の定義にしたがえば-(-1)としかならず、証明すべき事柄を証明そのものに持ち込んでいる、とも言える。より厳密にはたとえば、式11の(-a)を移行して
(11') a=-(-a)
を得たあと、式10を代入して得られた結果
(12') a=-{a*(-1)}
と、式10のaにa*(-1)を代入した結果
(10') -{a*(-1)}=a*(-1)*(-1)
を推移律で結びつけ
(13') a=a*(-1)*(-1)
としたのち、aに1を代入して
(14') 1=1*(-1)*(-1)
この右辺に結合法則、および交換法則を適用し、
(15') 1={(-1)*(-1)}*1
としたうえで、単位元1の性質により
(16') {(-1)*(-1)}*1=(-1)*(-1)
で、これと式15'、および反射律により
(17') (-1)*(-1)=1
とするべきであった。
(ほんとうはあといくつか気になる点、つまり、本来であれば証明しなければならないのに何食わぬ顔で=天下り的に導入してしまっている事柄があるが、そんなことを気にしはじめたら泥沼なので、不誠実と言われようが何だろうが、そういう点については指摘があるまでほおかむりしておく)
(というか、もうちょっとシンプルに証明できるような気もするんだが……って、いやいや、ほんとそんなことしてる暇はないんですって)
前提:
交換・結合・分配則等については心配しない(負数であろうがなかろうが、、、)。
1は自然数(0,1,2, ...)の乗法単位元。0は自然数の加法単位元とする。
0・0=0とする。
正数(x=1,2, ...)に0をかけると0になる(x=1の場合は1が自然数の乗法単位元であることから。x=n+1の場合は分配則によりx=nとx=1の場合に帰着する)。
以上の前提から以下の四点を導きます:
1)自然数nについてn+x=0となるxが一意に定まるのでそれを−nと書く。特に0は加法の単位元(0+0=0)なので−0は0そのものとなる。nが正数の場合は−nを負数と呼ぶことにする。
2)上記よりn+(−n)=0だが、これは逆にも読める。つまり、y+(−n)=0を満たすyは一意に定まり、それはnである。
3)負数に関しても1は乗法単位元である:正数nについて
(−n)・1=−n。
4)負数−nに0をかけると0になる。
証明
1)sとtがx+n=0を満たすとすると、s+n=t+nとなる。n=0の場合は0が加法単位元であることからs=t。一般にn=m+1(=S(m))の場合ペアノ公理の一つ(S(x)=S(y)ならばx=y)を用いてs+m+1=t+m+1からs+m=t+m、すなわちn=mの場合に帰着する。
2)sとtがy+(−n)=0を満たすとすると、s+(−n)=t+(−n)となるが、両辺にnを足すと結合則と逆元の定義からs+0=t+0となり、0は加法単位元なのでs=t。
3)−n・1がx+n=0を満たすことを示す。−n・1+n=−n・1+n・1(1は乗法単位元)。この右辺は分配則により=(−n+n)・1、さらに逆元の定義より=0・1となり、1は自然数の乗法単位元と前提したから=0となる。
4)正数nについて、−n・0=0を示したい。
0=0・0[前提の一つより]=(n+−n)・0[逆元の定義より]=n・0+−n・0。ここで第一項は「前提」の最後の部分で示されたように0となる。よって、0が加法単位元であることから、全体は0=−n・0となる。
証明終り。
以上の四点を使えば:
1+−1=0の両辺に−1をかけると、分配則を用いて、
−1・1+−1・−1=−1・0を得る。ここで、左辺の第一項は上の第三点目より=−1となり、また右辺は第四点目より、=0となる。よって−1+−1・−1=0を得るが、上の第二点目を思い出すなら、これは−1・−1が1に他ならないことを意味する。
なんか無茶苦茶長くなりました!
もとはレシートの裏に走り書きしただけのメモだったのですが、、、
第三点目と第四点目で負数を交えた場合の分配則をはっきり使い又第二点目でも結合則を使ったりしているので、「前提」で「、、分配則等については心配しない、、、」としましたが、正直、そういった点にまで目配りして厳密formalに行う気は起こりませんでした。
まあ然し、『プリンキピア』の繁雑・細密さは到底比較にならない途轍もないものだと聞いているので、個人的には当分、読むことはないと思います。
何か面白い点があればたまにでも報告して貰えれば楽しみに読みます(リクエストではないので、プレッシャー等、感じられませんようお願いします)。
『プリンキピア』については、ルールどおり(いまのところは)原則毎日何かしら書く予定ですが、あまりおもしろいことや啓発的なことを書ける自信はまったくありません。ので、あまり期待せずに、「こいつはよう懲りもせず益体もないことをつづけてるもんだ」と奇異の目をもて見守っていただけるとさいわいに思います。
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